甘酸
かんさん
名詞
標準
sweetness and bitterness
文例 · 用例
誰も、ごぞんじ無いのだ、と私は苦しさを胸一つにおさめて、けれども、その事実を知ってしまってからは、なおのこと妹が可哀そうで、いろいろ奇怪な空想も浮んで、私自身、胸がうずくような、甘酸っぱい、それは、いやな切ない思いで、あのような苦しみは、年ごろの女のひとでなければ、わからない、生地獄でございます。
— 太宰治 『葉桜と魔笛』 青空文庫
それから尾根を伝わって、下り気味になる、ちょいちょい小さく尖った山稜は、大波の間に、さざ波をだぶだぶ打ち寄せたようで、爪先が上ったり下ったりする、石の皺には、黄花の石楠花が、ちらほら咲いている、この花の弁で承けた霧の雫を吸ったときは、甘酸っぱい香気で、胸が透いた。
— 小島烏水 『谷より峰へ峰より谷へ』 青空文庫
やつと宿の物音があらかた靜まつた後は、門前のカフエーから蓄音機の奏する流行小唄の甘酸つぱい旋律が流れ出して居た。
— 寺田寅彦 『伊香保』 青空文庫
〕木の青、木の青、空の雲は今日も甘酸っぱく、足なみのゆれと光の波。
— 宮沢賢治 『台川』 青空文庫
折詰の飯に添えた副食物が、色々ごたごたと色取りを取り合せ、動物質植物質、脂肪蛋白|澱粉、甘酸辛鹹、という風にプログラム的に編成されているが、どれもこれもちょっぴりで、しかもどれを食ってもまずくて、からだのたしになりそうなものは一つもない。
— 寺田寅彦 『マーカス・ショーとレビュー式教育』 青空文庫
芥取車の上には半年の間捨て置かれた廢物が堆く積まれて甘酸い香をふりまきながら、物うげに脚を運ぶ老馬に牽かれて行く。
— 有島武郎 『春』 青空文庫
眠さうな音を立てゝ窓際でまはつてゐる蠅取機の甘酸い香を離れて解剖臺の方に飛んで來る蠅の數はふえた。
— 有島武郎 『實驗室』 青空文庫
錐を引いたと同時に去って行く痛みの尾のいおうようない甘酸っぱいひりひりした感覚の中に、うっかり閃いて来る心象は橘屋の娘のことでなければ富士の白い姿であった。
— 岡本かの子 『宝永噴火』 青空文庫
作例 · 標準
「あの頃の苦労があったから今があるんだよ」創業メンバーたちは、かつての甘酸を語り合いながら祝杯を挙げた。
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留学生活で味わった成功の喜びと挫折の悔しさ、その甘酸の全てが今の私を形作っている。
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彼は自身の半生を綴った自叙伝の中で、貧困から這い上がった激動の時代の甘酸を包み隠さず書き記した。
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若かりし日の淡い初恋の記憶は、何十年経った今でも、胸の奥で甘酸の入り混じった独特の響きを持って蘇る。
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