哀音
あいおん
名詞
標準
sad voices
文例 · 用例
食糧を貯蔵しなかった怠け者の蟋蟀が木枯しの夜に死んで行くというのが大団円であったが、擬音の淋しい風音に交じって、かすかなバイオリンの哀音を聞かせるのが割に綺麗に聞きとれるので、これくらいならと思って安心したのであった。
— 寺田寅彦 『ラジオ雑感』 青空文庫
自分はほとんどその哀音悲調を聴くに堪えなかった。
— 国木田独歩 『女難』 青空文庫
われ人共に、何をもってしても癒し難い無限に続く人生の哀音なるものが僕の弛緩した精神の鎧の合せ目から浸み込むためか。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
けれども、そのメロデーには、たとえ人間の持つあらゆる節廻しは浮世の暴風雨の音声に吹き消されても、これだけは一脈残ってどうしても人々の心に徹り響くという人間最後の哀音の抑揚がありました。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
私は何時も桐の花が咲くと冷めたい吹笛の哀音を思ひ出す。
— 北原白秋 『桐の花とカステラ』 青空文庫
いかにも哀音悲調と謂つた風の、うるほひのある澄み徹つた聲であるのだ。
— 若山牧水 『鳳來寺紀行』 青空文庫
「これで死んでしまってはつまらない」 もがく力も乏しい最後の哀音、聞いたほどの人の耳には生涯消えまじくしみとおった。
— 伊藤左千夫 『去年』 青空文庫
この章においてヨブは初めて、友に向って「我を憐め」との哀音を発するに至ったのである。
— 内村鑑三 『ヨブ記講演』 青空文庫
作例 · 標準
秋の夜長、隣家から漏れ聞こえる横笛の哀音が、独り身の寂しさをいっそう深めている。
落日の荒野を吹き抜ける風が、古戦場の跡地に残された折れた旗竿を震わせ、何とも言えぬ哀音を立てていた。
老いた琵琶法師が語りの中で奏でる弦の哀音は、滅びゆく一族の無常をまざまざと現代に蘇らせる。
霧深い海を彷徨う豪華客船が鳴らす霧笛の哀音は、救助を待つ人々にとって唯一の道標であり、希望でもあった。