咫尺
しせき
名詞動詞-サ変
標準
very short distance
文例 · 用例
名にし負う白峰、赤石、両大山脈が、東西に翼をひろげて、長大の壁をたてめぐらし、互に咫尺する間に、溝のように凹まった峡谷は、重々しい鉛色の空であるから、まだ一時半というのに、黄昏のように、うす暗い。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
名ある財界の大立物は勿論の事、相当有名な茶の湯の大家でも容易に咫尺する事が出来ない。
— 夢野久作 『お茶の湯満腹談』 青空文庫
私は如何にもして、かの怪の船の正體を見屆けんものをと、身を飜して左舷船首に走り、眼を皿のやうにして其船の方を見詰めたが、月無く、星影も稀なる海の面は、百|米突――二百|米突とは距たらぬのに黒暗々として咫尺を辨じない。
— 押川春浪 『海島冐檢奇譚 海底軍艦』 青空文庫
天は暗い、地も暗い、海の面は激浪逆卷き、水煙跳つて、咫尺も辨ぜぬ有樣、私は氣も氣でなく、直ちに球燈を點じて驅け出すと、日出雄少年も水兵等も齊しく手に/\松明をかざして、斷崖の尖端に立ち、聲を限りに叫びつゝ火光を縱横に振廻した。
— 押川春浪 『海島冐檢奇譚 海底軍艦』 青空文庫
が、咫尺も弁ぜざる冥濛の雪には彼も少しく辟易して、逃るとも無しに彼の空屋の軒前へ転げ込んだ。
— 岡本綺堂 『飛騨の怪談』 青空文庫
私は、東北の生れであるが、咫尺を弁ぜぬ吹雪の荒野を、まさか絶景とは言わぬ。
— 太宰治 『富士に就いて』 青空文庫
屡雲上高貴ニ咫尺シ、身ヲ持スルコト謹厳|恬淡ニシテ、芸道ニ精進シテ米塩ヲカヘリミズ。
— 夢野久作 『梅津只圓翁伝』 青空文庫
その声に応ずるように御姿だけは幾度拝んだか分らない阿弥陀如来が忽然として、咫尺の間に出現し給うた。
— 菊池寛 『極楽』 青空文庫