亀裂
きれつ
名詞頻度ランク #17460 · 青空 244 例
標準
crack
文例 · 用例
初冬の山と幾分か軽く視て、雪中の登山服装というほどの準備もしていなかったため、幾重の衣も徹されて、腹から股にかけ、薊で撫で廻されるような疼痛を感じ初めた、唇はピリッとして、亀裂するかと惑われ、その寒さにわなわなと骨髄から震動した。
— 小島烏水 『雪中富士登山記』 青空文庫
あとは瓦が数枚落ちたのと壁に亀裂が入ったくらいのものであった。
— 寺田寅彦 『震災日記より』 青空文庫
二つのガラス球の容積の差を補正するために添えたU字管に、眼に見えぬくらいの亀裂があったのを気付かないでいたために不可解な故障が起って、ほとんど絶望しかけたとき、珍しい低気圧がやって来て、その時の異常な結果からやっとこの故障の原因が分ったというような挿話もあった。
— 寺田寅彦 『レーリー卿(Lord Rayleigh)』 青空文庫
それは昭和十一年建てられた当時、墨の色もはっきりと読取られたものであるが、軟かい石の性質のためか僅か五年の間に墨は風雨に洗い落され、碑石は風化して左肩からはすかいに亀裂がいり、刻みこまれた字は読み難いほど石がところどころ削げ落ちている。
— 黒島傳治 『短命長命』 青空文庫
手術台の厚い硝子は、亀裂が入った。
— 黒島傳治 『武装せる市街』 青空文庫
七 親父はその晩、一合の酒も飲まないで、燈火の赤黒い、火屋の亀裂に紙を貼った、笠の煤けた洋燈の下に、膳を引いた跡を、直ぐ長火鉢の向うの細工場に立ちもせず、袖に継のあたった、黒のごろの半襟の破れた、千草色の半纏の片手を懐に、膝を立てて、それへ頬杖ついて、面長な思案顔を重そうに支えて黙然。
— 泉鏡花 『国貞えがく』 青空文庫
蔦をその身に絡めたるまま枯木は冷然として答えもなさず、堤防の上につと立ちて、角燈片手に振り翳し、水をきっと瞰下ろしたる、ときに寒冷|謂うべからず、見渡す限り霜白く墨より黒き水面に烈しき泡の吹き出ずるは老夫の沈める処と覚しく、薄氷は亀裂しおれり。
— 泉鏡花 『夜行巡査』 青空文庫
次には熱い茶わんの湯の表面を日光にすかして見ると、湯の面に虹の色のついた霧のようなものが一皮かぶさっており、それがちょうど亀裂のように縦横に破れて、そこだけが透明に見えます。
— 寺田寅彦 『茶わんの湯』 青空文庫