残り香
のこりが異読 のこりか
名詞
標準
lingering scent
文例 · 用例
そして、伊都子の匂い……というよりもむしろ、人間の浅ましい交渉の匂いのかすかな残り香を嗅いでいると、女のあわれさが、はや信吉を憂愁の感覚でとらえてしまった。
— 織田作之助 『夜の構図』 青空文庫
昨夜の伊都子の残り香がまだ漂っている筈だったが、煙草の匂いがそれを消していた。
— 織田作之助 『夜の構図』 青空文庫
」「でも、ぶよんとはしているが、残り香が深そうで、なかなか美形だぜ」「へへい、おどろいちゃったな。
— 青眉の女 『右門捕物帖』 青空文庫
そ、そりゃ、なるほどべっぴんはべっぴんですがね、まゆも青いし、くちびるも赤いし、まだみずけもたっぷりあるから、残り香とやらもなるほど深うござんすにはござんすだろうがね、でも、ありゃ後家さんですぜ」「後家ならわるいか」「わ、わ、わるかない。
— 青眉の女 『右門捕物帖』 青空文庫
では、この紙入れもそなたに返してつかわすによって、しっかり残り香なと抱き締めて、もうやすめ」 いちばんの懸念だった自殺のおそれがないと見きわめがついたものでしたから、右門も少しほっとなって若者の傷ついた魂を一刻も早く休息させてやるために、みずから夜具の用意をととのえてやりました。
— 達磨を好く遊女 『右門捕物帖』 青空文庫
同時にまた、文化の面では、アンナ・アフマートヴァのフランス香水の残り香のする老いた桃色と紫色との詩にちょっと魅せられるような気分をも伴った。
— 宮本百合子 『政治と作家の現実』 青空文庫
三 もの忘れした時のやうに、おぼえもあらぬ残り香の漂ひきて薄明のなかをそぞろあるきするにも似た心地に誘はれることがある。
— ――漫談的無駄話―― 『「香水の表情」に就いて』 青空文庫
今迄の大気や大地や食物や衣服や酒や煙草の、最後の残り香は、まだ身辺に立ち迷っているのである。
— 豊島与志雄 『或る日の対話』 青空文庫