名もない
なもない
表現形容詞
標準
unknown
文例 · 用例
たとえば郊外を歩いていて道ばたの名もない草の花を見る時や、あるいは遠くの杉の木のこずえの神秘的な色彩を見ている時に、わずかの瞬間だけではあるが、このえびの幻影を認める事ができる。
— 寺田寅彦 『田園雑感』 青空文庫
名もない一遊子ではあるけれど、私も幼い時から、富士の影を浴びて、武蔵相模で育った一児童として、永い間の外国生活から、故国へ放還された一旅人として、親友と、子供と、忠実なる案内者とに囲まれて、今富士の膝下へ来て亡き母の顔に見えまつるが如く、しみじみと見ているのだ。
— 小島烏水 『不尽の高根』 青空文庫
今のちりめんでは、綿紗とか西陣とか小浜とか立派な名を持つてゐるのより、むしろ名もないたゞの地になつて、やたらに友染の染め下地になつてるやうな普通のちりめんといふだけで通るあのちりめんがなつかしくて好きです。
— 岡本かの子 『縮緬のこころ』 青空文庫
ただ科学の野辺に漂浪して名もない一輪の花を摘んではそのつつましい花冠の中に秘められた喜びを味わうために生涯を徒費しても惜しいと思わないような「遊蕩児」のために、この取止めもない想い出話が一つの道しるべともなれば仕合せである。
— 寺田寅彦 『科学に志す人へ』 青空文庫
殿上の名もない一女官がおぼつかない筆で書いた日記体のものでも、それが忠実な記録であるために実証的の価値があり同時にそこに文学としての価値を生じるものと思われる。
— 寺田寅彦 『科学と文学』 青空文庫
むしろ先生がいつまでも名もないただの学校の先生であってくれたほうがよかったではないかというような気がするくらいである。
— 寺田寅彦 『夏目漱石先生の追憶』 青空文庫
良寛さんのやうな、名もない一僧侶に、大きい家を建てて、沢山の病人をあつめて、施療を行ふといふ大きな仕事を、幕府が許すであらうか。
— 新美南吉 『良寛物語 手毬と鉢の子』 青空文庫
」 三十二「広く行渉るばかりを望んで、途中で群消えになるような情を掛けずに、その恵の露を湛えて、ただ一つのものの根に灌いで、名もない草の一葉だけも、蒼々と活かして頂きたい。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
作例 · 標準
彼は都会の片隅にある名もない小さな出版社で、ひっそりと働いている。
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道端に咲く名もない花が、強い風に耐えながら健気に揺れていた。
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歴史の教科書には載らない、名もない人々の営みが文化を作ってきた。
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