忍ばす
しのばす
動詞
標準
文例 · 用例
」 憚り多いが、霊容の、今度は、作を見ようとして、御廚子に寄せた目に、ふと卯の花の白い奥に、ものを忍ばすようにして、供物をした、二つ折の懐紙を視た。
— 泉鏡花 『燈明之巻』 青空文庫
座敷では袂へ忍ばす金縁の度装の硝子を光々さした、千鳥と云う、……女学生あがりで稲葉家第一の口上|言が、廂髪の阿古屋と云う覚悟をして度胸を据えて腰を据えて、もう一つ近視眼を据えて、框へ出て、はッと悪く落着いた切口上。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
けだしくや我がかぶろ髪母もまた忍ばすらむか。
— 北原白秋 『雀の卵』 青空文庫
けだしくや我がかぶろ髪、母もまた忍ばすらむか。
— 北原白秋 『観相の秋』 青空文庫
祖母は、その孫より先に八十九歳の生涯を終ったが、生きているうちから、私はお祖父様には面目なくてと云っていたが、遺骨は祖父の墓へは入らず、足音を忍ばすようにしてお姑さんの人のうしろの方から入っていった。
— 宮本百合子 『繻珍のズボン』 青空文庫
やや暫く経ってから、私は足音を忍ばすようにして自分の部屋へ上って行った。
— 宮本百合子 『一つの出来事』 青空文庫
一町二町先から人の足音を聞き取って、高塀や木蔭に身を忍ばすことの巧妙なのは、さながら忍びの術の精妙から出でたものかとも思われます。
— 如法闇夜の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
麻油は失心したやうに目を閉ぢて動かない伊豆の姿を見下して、暫くの間ぢつと息を窺つてゐたが、やがて真白い肉付のいい二本の腕を忍ばすやうに静かに延すと、伊豆の頸を抑へて力強く絞めつけた。
— 坂口安吾 『小さな部屋』 青空文庫