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隠々

隠々
名詞
1
標準
文例 · 用例
これを聞いていた源三はしくしくしくしくと泣き出したが、程立って力無げに悄然と岩の間から出て、流の下の方をじっと視ていたが、堰きあえぬ涙を払った手の甲を偶然見ると、ここには昨夜の煙管の痕が隠々と青く現れていた。
幸田露伴 雁坂越 青空文庫
許されて自宅に帰り、そこで謹慎するようになってから、はじめて、彼は、自分がこの一月狂乱にとり紛れて己が畢生の事業たる修史のことを忘れ果てていたこと、しかし、表面は忘れていたにもかかわらず、その仕事への無意識の関心が彼を自殺から阻む役目を隠々のうちにつとめていたことに気がついた。
中島敦 李陵 青空文庫
地は荒れ、物は毀れたる中に一箇は立ち、一箇は偃ひて、言あらぬ姿の佗しげなるに照すとも無き月影の隠々と映添ひたる、既に彷彿として悲の図を描成せり。
尾崎紅葉 金色夜叉 青空文庫
「乃公はもう万事休すだ、お前さん達は、乃公のやられるのを見るだろう」 隠々と泣く声が聞えてきたが、やがて三人の者は水の中へ入って往った。
田中貢太郎 緑衣人伝 青空文庫
けれども彼我の間には一脈の呼吸が隠々として通いながらも、その人の認識が深刻でないために、概念的の錯誤から、外面的には著しく異なった――というよりも相そむかねばならぬほどの態度が生じているのだと自分には思われるときにはどうすればいいであろうか。
倉田百三 愛と認識との出発 青空文庫
ふッと眼が覚めると、薄暗い空に星影が隠々と見える。
ガールシン 四日間 青空文庫
尤も私に、臨済と、普化との、消息を教えて下すって、臨済録の『勘弁』というところにある『ただ空中に鈴の響、隠々として去るを聞く』あれが鈴慕の極意だよ、と教えて下すった方はありました。
鈴慕の巻 大菩薩峠 青空文庫
三十二 するとその印を結んだ手の中から、俄に一道の白気が立上って、それが隠々と中空へたなびいたと思いますと、丁度|僧都の頭の真上に、宝蓋をかざしたような一団の靄がたなびきました。
芥川龍之介 邪宗門 青空文庫