潮満
しおみつ
名詞
標準
文例 · 用例
実際この浜には乾いた枯蘆しかなく、水は遠浅の内海ですが、しかし沖のかたに潮満ち寄せる日中の白帆の群が介殻を立て並べたように鋭く閃めき、潮先の泡に向って飜り落ちてはまた煽ぎ上る鴎の光って入乱れる影が、ふと眼に入ると、どういうものか私は堪らなくなりました。
— 岡本かの子 『扉の彼方へ』 青空文庫
我はかくばかり善く釣り得るが、父上弟はと遥かに視るに、父上も弟も面に喜びの色あるやうなれば、おのれも心満ちたらひて一向に釣り居けるが、やがて潮満ち来て「きゃたつ」を余すこと二尺足らずとなりし時、舟子舟を寄せ来りて、今日はこれまでなり、又の日の潮にと云ふ。
— 幸田露伴 『鼠頭魚釣り』 青空文庫
朝光よ雲居立ち立ち、夕光よ潮満ち満つ。
— 北原白秋 『夢殿』 青空文庫
西日して潮満つるまの夕干潟営み長く蟹ぞつぶやく夕凪の干潟まぶしみ生貝や弥勒むく子の額髪にして西日には蟶むきて居るならし後姿気ぶかき四五の女童女童や我は思へば額髪のかぐろき瞳|此方見あげつ潮くさき突堤に沁むる夏西日音あわて落つるむつごろ影あり註、沖端にては突堤をうろこと云ふ。
— 北原白秋 『夢殿』 青空文庫
八月潮満ちて蘆花が纔かに咲き出でようとする頃、ことに此江上の響が高い。
— 吉江喬松 『海潮の響』 青空文庫
彼女が神代の女性の神々しさと竜女の不思議をひとつにこめて、潮干る珠、潮満つ珠を両手にささげ持ってあらわれた。
— 倉田百三 『光り合ういのち』 青空文庫
如何にぞ、人の兄として弟に仕へむや」と言うて、再び潮満つ珠の霊力で苦しめられる話がある。
— 折口信夫 『「ほ」・「うら」から「ほがひ」へ』 青空文庫
少しむずかしいのには、幾人東至又西還(幾人か東に至りまた西に還るや)潮満沙頭行路難(潮沙頭に満ちて行路難し)会得截流那一句(流れを截つの那の一句を会得せば)何妨抹過海門関(何ぞ妨げん海門の関を抹過するを)と読まれるのもある。
— 年魚市の巻 『大菩薩峠』 青空文庫