鉄鋲
てつびょう
名詞
標準
文例 · 用例
貸家になっている前の家の石壁に打ち込まれた鉄鋲から垂れ流れている錆あとが、血のように眼に滲みつく。
— 横光利一 『旅愁』 青空文庫
窓外に編輯局からの給仕君の鉄鋲うった靴音が聞えてきそうである。
— 海野十三 『軍用鼠』 青空文庫
覆いかかった葉柳に蒼澄んだ瓦斯燈がうすぼんやりと照しているわが家の黒門は、固くしまって扉に打った鉄鋲が魔物のように睨んでいた。
— 水上滝太郎 『山の手の子』 青空文庫
壁の厚み三尺以上もあり、鉄鋲をうちつけた重い樫の扉の錠前は、二重にも三重にもなり、二階造りで、一階には窓がなく、段の高い階段を上ってゆくと、二階の正面にただ一つ、二尺四方ぐらいの小窓があるきりだ。
— 豊島与志雄 『怪異に嫌わる』 青空文庫
しなりのいいマニラ帆綱のさきに、鉄鋲を結びつけた喧嘩用武器の|大見せ場だ。
— しっぷ・あほうい! 『踊る地平線』 青空文庫
読者の中には、その際有楽町の方から単音符をうつような、気ぜわしい連続音が聞こえてくるのを耳にされた方もあって、この早朝、建築場ではもう鉄鋲打が始まったのかと思い、いささか遊びに耽りすぎたことを後悔された向もあったであろう。
— 久生十蘭 『魔都』 青空文庫
人類の大いなる禍であるところの封建制度はこの身分空間をみずからの生活をもって、嘗め味わい、アリストテレスの哲学は近世の初頭まで多くのアレキサンダーすなわち封建領主たちの城門を固める鉄鋲となったのである。
— 中井正一 『美学入門』 青空文庫
背中にはいっぱい物のはいった、堅く締め金をとめた、まだ新しい背嚢を負い、手には節のあるごく大きな杖を持ち、足には靴足袋もはかずに鉄鋲を打った短靴を穿ち、頭は短く刈り込み、ひげを長くはやしている。
— LES MISERABLES 『レ・ミゼラブル』 青空文庫