温かみ
あたたかみ
名詞
標準
文例 · 用例
近頃某氏のために揮毫した野菜類の画帖を見ると、それには従来の絵に見るような奔放なところは少しもなくて全部が大人しい謹厳な描き方で一貫している、そして線描の落着いたしかも敏感な鋭さと没骨描法の豊潤な情熱的な温かみとが巧みに織り成されて、ここにも一種の美しい交響楽が出来ている。
— 寺田寅彦 『津田青楓君の画と南画の芸術的価値』 青空文庫
オンドルは、おだやかな温かみを徐ろに四肢に伝えた。
— 黒島傳治 『前哨』 青空文庫
「あの時は、兄さんはほんとに私をひどい目に逢わしたね」 お島は長いあいだの経過を考えて、何の温かみも感ずることのできない恣まな兄との接触に、失望したように言出した。
— 徳田秋声 『あらくれ』 青空文庫
その現われ出た木部の顔を、いわば心の中の目で見つめているうちに、だんだんとその鼻の下から髭が消えうせて行って、輝くひとみの色は優しい肉感的な温かみを持ち出して来た。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
「いいよ」「いいから、着ろってば」 慶一はそれ以上あらがわず、高志の温かみがのこるトレイナーを引っかけ、マフラーのようにして、首のまえで袖をむすんだ。
— 第1章 ローラーコースター、1966年 『45回転の夏』 青空文庫
はじめはジツと動かなかつたが、その中に、傍の火の温かみで元氣が出たと見え、少しづつ動き出した。
— 中島敦 『かめれおん日記』 青空文庫
もし、三人の夢が、幻像を画いて通い合うとすれば、自分が帰った後の蒲団には、舞台姿の逢痴が横になっていて、その側から掻巻をかかげ、入り込もうとしている久米八は、さぞ自分が残した、温かみに眉を顰めることであろう。
— 小栗虫太郎 『人魚謎お岩殺し』 青空文庫
氏の作品が、普通のリアリズムの作品と違って一種の温かみを有している事は、前に述べたが、氏の作品の背景はただそれだけであろうか。
— 菊池寛 『志賀直哉氏の作品』 青空文庫