黒衿
くろえり
名詞
標準
文例 · 用例
黒衿のかかった千縞の半纒の肩へ鮨箱をかつぎ、麻裏草履の爪さきを反らせながら、うっとりするような美しい声で、「すウしや、小鰭のすウし――」 と、触れてゆく。
— 小鰭の鮨 『顎十郎捕物帳』 青空文庫
湯にはいったのだろうか、洗い髪をさっと束ねて背に垂らし、浴衣に丹前を重ねた上へ、黒衿を掛けた半纒、紫色の地に絞りで大きく紅葉の飛び模様を染めた、――をひっかけ、口紅はつけず、うす化粧をしていた。
— 山本周五郎 『五瓣の椿』 青空文庫
母は眼は少し窪んでいましたが瓜実顔に肉附きのよい美人で、その当時はやりの花月巻というのを結って黒襟の小紋|縮緬の袷でも着たら品もあり仇っぽくもあり、誰でもみな顧りました。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
葉子と顔を見合わした瞬間には部屋を間違えたと思ったらしく、少しあわてて身を引こうとしたが、すぐ櫛巻きにして黒襟をかけたその女が葉子だったのに気が付くと、いつもの渋いように顔をくずして笑いながら、「なんだばかをしくさって」 とほざくようにいって、長火鉢の向かい座にどっかとあぐらをかいた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
顔を洗う所などで落ち合う時、敬太郎は彼の着ている黒襟の掛ったドテラが常に目についた。
— 夏目漱石 『彼岸過迄』 青空文庫
理論家窪川鶴次郎は彼女に手を出して手を噛まれた――小説といふ彼女に窪川稲子の嫉妬が小説を書かせるほど彼女は利巧者で、小説家で黒襟をはずしてアッパッパを着る時代性も承知してゐる。
— 詩集(11)文壇諷刺詩篇 『小熊秀雄全集-12』 青空文庫
まるでお伽噺みたいに、そんなことって……」 とお光は結綿を動かして、せかせかと息を喘ませていたが、杉江はその黒襟の汚れを爪で弾き取って、「いいえ、それと云うのは、私の設えた幻燈なので御座います。
— 小栗虫太郎 『絶景万国博覧会』 青空文庫
そうして、末起は、郊外の邸町で育ち、黒襟の、母や祖母とはそぐわぬ、ミッションスクールに入れられた。
— 小栗虫太郎 『方子と末起』 青空文庫