懐中鏡
かいちゅうかがみ
名詞
標準
pocket mirror
文例 · 用例
ざっと流して座敷に帰り、手早く旅行鞄を開きて、小瓶の中より絵具を取出し、好く顔に彩りて、懐中鏡に映し見れば、我ながらその巧妙なるに感ずるばかり旨々と一皮|被りたり。
— 泉鏡花 『活人形』 青空文庫
月いと清うさしいでて、葉裏を透して照らすにぞ、偶然思い付く頬の三日月、また露れはせざるかと、懐中鏡を取出せば、きらりと輝く照魔鏡に怪しき人影映りけるにぞ、はっと鏡を取落せり。
— 泉鏡花 『活人形』 青空文庫
」と覚束なげに巡査の声色を佳い声で使いながら、打合せの帯の乳の下の膨らんだ中から、一面の懐中鏡を取出して、顔を見て、ほつれ毛を掻上げた。
— 泉鏡花 『湯島詣』 青空文庫
この時まで嗜んで持っていたか、懐中鏡やら鼈甲に透彫の金|蒔絵の挿櫛やら、辺に散ばった懐紙の中には、見覚のある繿縷錦の紙入も、落交って狼藉極まる、蝶吉はあたかも手籠にされたもののごとく、三人|懸りで身動きもさせない様子で、一|人は柄杓を取って天窓から水を浴びせておった。
— 泉鏡花 『湯島詣』 青空文庫
僕は、女からものをもらうのは、いやだから、はじめからお土産の強迫などもしなかったし、また、みんなと同じおもちゃの懐中鏡一枚の恩恵に浴したところで、つまらない事だと思っていたし、マア坊が僕たちの部屋へやって来て、かっぽれに鏡を手渡し、「かっぽれさんは、この女優を知ってる?
— 太宰治 『パンドラの匣』 青空文庫
或いは、あの小さい懐中鏡から無意識にネクタイを聯想したのかも知れない。
— 太宰治 『パンドラの匣』 青空文庫
そして少し人心地がついたので、帯の間から懐中鏡を取り出して顔を直そうとすると、鏡がいつのまにかま二つに破れていた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
鏡を見まいと思いながら、葉子はおりあるごとに帯の間から懐中鏡を出して自分の顔を見つめないではいられなかった。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫