寄切
寄切
名詞
標準
文例 · 用例
……ここをいうのだ、茶屋の女房の浅黄縮緬のちらちらなぞは、突っくるみものの寄切だよ、……目も覚め、心に沁みようじゃないか。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
一日、その母親の手から、娘が、お前さんに、と云って、縮緬の寄切で拵えた、迷子札につける腰巾着を一個くれたんです。
— 泉鏡花 『縁結び』 青空文庫
菊細工というが、糸だか寄切れだか……ただ水引を、半輪の菊結び、のしがわりの蝶の羽には、ゆかり香を添えました。
— 泉鏡花 『菊あわせ』 青空文庫
浜辺を廻つたり、田圃を寄切つたり、滑り易い坂を降つたりして、それからまた十銭の切符だが汽車にも乗る程の遠さだつたから、雨だと樽野は必ずN村行きを休むのであつた。
— 牧野信一 『円卓子での話』 青空文庫
などゝいふ風なことを自分に対して何といふこともなしに皮肉に考へたりしたが、そんな想ひは窓先を寄切る白い花片のやうに一瞬の間に消え去せて、凄じい車輪の響が、そのまゝ凄じく彼の胸で歓喜の響を挙げてゐるだけだつた。
— 牧野信一 『陽に酔つた風景』 青空文庫
競馬場を寄切つて、向方の村道へ出るのであつた。
— 牧野信一 『熱い風』 青空文庫
僕も、このまゝ、素ツ裸になつて飛び出したくなつたが、僕の机の上には、冬から春へかけての季節を背景にした苦しい文章の草稿が、戦乱の原野の如く、四散してゐる……夜も昼もなく、そして、この戦ひには、春も夏もなく――僕は、タンクの如く、野を過ぎ、丘を寄切り、山を越えて行かなければならないのだ。
— 牧野信一 『小田原の夏』 青空文庫
君のやうに大酒を飲んで樽を叩いて、歌を歌ひながら進むのも決してそれが廻り道でないこともなからう、何れにしても吾々は、円の中心を寄切る一直線の円に交る一点を出発点にして、夫々反対側の弧を渡つて、上方の、直線が円に交る一点を指して進んでゐるまでなのだよ。
— 牧野信一 『新興芸術派に就いての雑談』 青空文庫