憚
憚
名詞
標準
文例 · 用例
先生と長塚とはもう一朝一夕の交わりの様でない、先生に逢うてだれでも起るところの、その憚るべき畏るべき感じと云うものが、長塚には毫末もない様であった。
— 伊藤左千夫 『正岡子規君』 青空文庫
何等の修養なき、何等の経験なき青年文士や、偏学究などに依って説かるる家庭問題、予は有害無益なるを云うに憚らぬ。
— 伊藤左千夫 『家庭小言』 青空文庫
匹夫野人も屑しとしないような醜行陋体を、世間憚らず実現しつつ、詩は神聖恋は神聖を歌って居るところの汚醜劣等の卑人が、趣味がどうの、美がどうのと云うてるのに、社会の一部が耳をかしてるとは、情ないじゃないか。
— 伊藤左千夫 『家庭小言』 青空文庫
おのずから人前を憚り、人前では殊更に二人がうとうとしく取りなす様になっている。
— 伊藤左千夫 『野菊の墓』 青空文庫
互に手を取って後来を語ることも出来ず、小雨のしょぼしょぼ降る渡場に、泣きの涙も人目を憚り、一言の詞もかわし得ないで永久の別れをしてしまったのである。
— 伊藤左千夫 『野菊の墓』 青空文庫
それほどに無邪気な可憐な恋でありながら、なお親に怖じ兄弟に憚り、他人の前にて涙も拭き得なかったのは如何に気の弱い同志であったろう。
— 伊藤左千夫 『野菊の墓』 青空文庫
夫れは辱し早く癒つて縫ふて呉れと言へば、左樣しましたらば植村樣を呼んで下さるか、植村樣に逢はして下さるか、むゝ逢はして遣る、呼んでも來る、はやく癒つて御兩親に安心させて呉れ、宜いかと言へば、あゝ明日は癒りますると憚りもなく言ひけり。
— 樋口一葉 『うつせみ』 青空文庫
と御声ひくゝ四壁を憚りて、口数すくなき伯母君が思し合はすることありてか、しみじみと諭し給ひき、我れ初めは一向夢の様に迷ひて何ごとゝも思ひ分かざりしが、漸々伯母君の詞するどく。
— 樋口一葉 『雪の日』 青空文庫