来鳴く
きなく
動詞
標準
文例 · 用例
春や来しと覚ゆるなるに、我牢室を距ること数歩の地に、黄鳥の来鳴くことありて、我耳を奪ひ、我魂を奪ひ、我をしてしばらく故郷に帰り、恋人の家に到る思ひあらしむ、その声を我が恋人の声と思ふて聴く時に、恋人の姿は我前にあり、一笑して我を悩殺する昔日の色香は見えず、愁涙の蒼頬に流れて、紅ゐ闌干たるを見るのみ。
— 北村透谷 『我牢獄』 青空文庫
十三の少女は、いづくにかしるしの糸はつけつらむ 年々来鳴くつばくらめかなという、生気のある愛くるしい歌をつくったりしている。
— 宮本百合子 『婦人と文学』 青空文庫
此春翁と前後して北へ帰った雁がまた武蔵野の空に来鳴く時となった。
— 徳冨健次郎 『みみずのたはこと』 青空文庫
「朝顔は朝露おひて咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけれ」(巻十・二一〇四)、「夕影に来鳴くひぐらし幾許も日毎に聞けど飽かぬ声かも」(同・二一五七)などの例がある。
— 斎藤茂吉 『万葉秀歌』 青空文庫
蓮華草の田がすき返され、塀の外田に蛙が鳴き、米倉の屋根に雀が巣くう、というような情景もそうであるが、やがて郭公の来鳴くころに、弟と笹の葉とりに山に行き粽つくりし土産物ばなしここへ来る一里あまりの田のへりを近路といへばまた帰り行くなどと歌われている。
— 和辻哲郎 『歌集『涌井』を読む』 青空文庫