遠々
遠々
名詞
標準
文例 · 用例
その夢にかって、はっきりした顔は分らんほど遠々しゅうて、……この春も、やっとお処が知れて、たよりをしたけれど……」 と、くいしばったような涙になる。
— 泉鏡花 『卵塔場の天女』 青空文庫
男は女蕩らしの浮氣もの、近頃は嫂の年増振に目を着けて、多日遠々しくなつて居たが、最う一二年、深く馴染んで居たのであつた。
— 泉鏡太郎 『一席話』 青空文庫
首尾は、しかし惡くはなかつたか、直ぐにいそ/\と出て來るのを、垣根にじり/\と待ちつけると、顏を視て、默つて、怨めしい目をしたのは、日頃の遠々しさを、言はぬが言ふに彌増ると云ふ娘氣の優しい處。
— 泉鏡太郎 『一席話』 青空文庫
「私が使いに選ばれて来ましたのは、お取り次ぎなしにお話を申すようにという父の考えだったかと思いますが、こんなふうな遠々しいお扱いでは、それを申し上げられない気がいたします。
— 藤袴 『源氏物語』 青空文庫
「この世においでになる人の数にもおあたりになりませんようなお暮らしをあそばして、当然おいでにならなければならない方でさえも段々遠々しくばかりなっておしまいになりますのに、あなた様の御好意のかたじけなさは、私ども風情のつまらぬ者さえも驚きの目をみはるばかりでございます。
— 橋姫 『源氏物語』 青空文庫
「ここにすわってもよいとお許しくださいます点は名誉に思われますが、しかしこうした御簾の前の遠々しいおもてなしを受けることで悲観されて、たびたびは伺えないのです」 と薫が言うと、「それではどういたせばお気が済むのでございますか」 女房はこう答えた。
— 宿り木 『源氏物語』 青空文庫
少女ではないのであるから、恨めしい方の心と比べてみて、何につけてもりっぱな薫がわかったのか、平生あまりに遠々しくもてなしていて気の毒であった、人情にうとい女だとこの人が思うかもしれぬと思い、今日は前の室の御簾の中へ入れて、自身は中央の室の御簾に几帳を添え、少し後ろへ身を引いた形で対談をしようとした。
— 宿り木 『源氏物語』 青空文庫
遠々に消えてゆくものは雀のかげ、冬陽の名残、時雨も幽かにわたつてゆくが、ともすると、いつのまにやら雪になつてる。
— 北原白秋 『観相の秋』 青空文庫