寄せ返す
よせかえす
動詞
標準
文例 · 用例
それが向こうに行くと吸い込まれたように砂の盛れ上がった後ろに隠れて、またその先に光って現われて、穏やかなリズムを立てて寄せ返す海べの波の中に溶けこむように注いでいた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
とにかく彼女は退きかけた波が再び寄せ返す前に、二人の間に割り込まなければならなかった。
— 夏目漱石 『明暗』 青空文庫
半左衛門座に引付けられた見物衆の大波が、万太夫座の方へ寄せ返すかと思うと、それが何よりの楽しみじゃ。
— 菊池寛 『藤十郎の恋』 青空文庫
両手を拡げるように都会植民地の前に大柱列を並べ、人はそこまで出てしまうと西から来て再び西へ寄せ返す人波と、二つの巨大な磁石巖――株式取引所と銀行とのまわりで揉み合い塵を捲き上げつつ流れる人渦とを見るだけである。
— 宮本百合子 『ロンドン一九二九年』 青空文庫
人の思想がある観念の方へ立ち戻るのを止めることができないのは、あたかも海が浜辺に寄せ返すのを止めることができないと同じである。
— LES MISERABLES 『レ・ミゼラブル』 青空文庫
少し風のある日で、長い汀には寄せ返す波が白く泡立ち、はるかな沖に漁をする舟が幾つか見えていました。
— 山本周五郎 『失蝶記』 青空文庫
こうして、大手、搦手とも、一休みしては駈け出し、斬り崩してはまた引き揚げ、大波の寄せ返すような激戦を繰り返すこと六度、首を獲ること四百三十七級――その日もはや暮れなんとして――ようやく味方の人数にもめっきり減りが目立ち、残る人々もすべて満身|創痍を負って、恙なく歩いている人影はほとんどなかった。
— 第六分冊 『新書太閤記』 青空文庫
八 長い気もちのする――しかし事実はきわめて短い――寄せ返す波音の五たびか六たびも繰り返すあいだであったろうか。
— 円明の巻 『宮本武蔵』 青空文庫