歩み来る
あゆみくる
動詞
標準
文例 · 用例
遠くより音して歩み来るやうなる雨、近き板戸に打つけの騒がしさ、いづれも淋しからぬかは。
— 樋口一葉 『あきあはせ』 青空文庫
」 紙片は寸断し去って袂に葬り、勝手|許に退らんと歩み来る、片隅の闇中より、黒きもの、ぬっと出づ。
— 泉鏡花 『貧民倶楽部』 青空文庫
白くして悩める眼鏡橋のうへを鉄輪を走らしつつ外科医院の児は過ぎゆき、気の狂ひたる助祭は言葉なく歩み来る。
— 北原白秋 『東京景物詩及其他』 青空文庫
事務室の辺より四十ばかりの憐れなる女淡青の風呂敷包を背に負ひ、手には粗末なる蜜柑函を持ちて歩み来る、木材のにほひ空虚なる函に新し、この女西洋館前のだらだら坂を下りてゆく時その淡黄にて力なき壁の夕日を振りかへる。
— 北原白秋 『春の暗示』 青空文庫
事務室の辺より四十ばかりの憐れなる女淡青の風呂敷包を背に負ひ、手には粗末なる蜜柑函を持ちて歩み来る、木材のにほひ空虚なる函に新し、この女西洋館前のだらだら坂を下りゆく時その淡黄にて力なき壁の夕日を振りかへる。
— 北原白秋 『桐の花』 青空文庫
秘かにその機会を窺っている中に、一日たまたま郊野において、向うからただ一人歩み来る飛衛に出遇った。
— 中島敦 『名人伝』 青空文庫
東山青蓮院のあたりより桃色の日の歩み来るかな 雀百まで踊忘れずといふほどでもないが、久しぶりで昔の晶子調が出て来た珍しさを感じてその当時読んだ記憶がある。
— 平野萬里 『晶子鑑賞』 青空文庫
先に大原が小山の妻君に話せし通り、どんぐり眼に団子っ鼻、赤ら顔に縮れっ毛、大兵肥満の大女なれども鬼も十八の娘盛りとて薄黒い顔に白粉をコテと塗り、太き地声を細く殺して「伯母さん今日は」と妙に気取って歩み来る。
— 春の巻 『食道楽』 青空文庫