薬性
やくせい
名詞
標準
文例 · 用例
百合と山査子の匂いとだけ判って、あとは私の嗅覚に慣れない、何の花とも判らない強い薬性の匂いが入れ混って鬱然と刺戟する。
— 岡本かの子 『河明り』 青空文庫
ところがいま眼の前の父の言葉といい、態度といい、全く思いがけないもので何だかわたくしの身体に融け入って来る和やかなものがありながら、それはもう父の茹り枯しの滓で、揮発性も爆薬性もない摘みほぐした綿のようになった父の性格の繊維だけを感ずるのでした。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
敏子は釣銭を渡しながら、纒めて買えば毎日来る手間もはぶけるのにと思ったが、もともとヒロポンの様な劇薬性の昂奮剤を注射する男なぞ不合理にきまっている。
— 織田作之助 『薬局』 青空文庫
只刃物で死んだら、其|刹那に肉体の痛みを覚えるだらうと思ひ、病や薬で死んだら、それぞれの病症|薬性に相応して、窒息するとか痙攣するとかいふ苦みを覚えるだらうと思ふのである。
— 森鴎外 『妄想』 青空文庫
漢名王不留行、本草綱目にその薬性走つて止まらず、婦人服し了つて乳長く流るといふ語あり、王命ありと雖もその行をとゞむる能はず、ゆゑに名づくと釈く。
— 南方熊楠 『きのふけふの草花』 青空文庫
然るに、その渡り来る薬品どもの中には効能の勝れたるもあり、又は製煉を尽して至つて猛烈なる類もありて、良医これを用ひて病症に応ずればいちじるき効験をあらはすもあれど、もとその薬性を知らず、又はその薬性を知りてもその用ふべきところを知らず、もしその病症に応ぜざれば大害を生じて、忽ち人命をうしなふに至る。
— 第一部上 『夜明け前』 青空文庫