挿し櫛
さしぐし
名詞
標準
文例 · 用例
挿し櫛のはいった小箱につけられた飾りの造花に御歌が書かれてあった。
— 絵合 『源氏物語』 青空文庫
挿し櫛は十余り七つありしかど武生ノ掾の朝に取り、夜さり取り、取りしかば挿し櫛もなし わずかな税物の代りに、髪飾りすら、地方の掾の下吏に持って行かれたと嘆いている土民の妻の顔が目に見えるような謡である。
— 吉川英治 『平の将門』 青空文庫
吹上げの浜の白ぎくさしぐしの夕月に―― とか、なんとか、わたしが即興詩を与えたことがあったが、その、朝と夕べとの小曲の作曲が、どうも気に入らないといって、どうしても聴かせてくれないので、わたしも、その歌を忘れてしまっている箏だった。
— 長谷川時雨 『朱絃舎浜子』 青空文庫
この時まで嗜んで持っていたか、懐中鏡やら鼈甲に透彫の金|蒔絵の挿櫛やら、辺に散ばった懐紙の中には、見覚のある繿縷錦の紙入も、落交って狼藉極まる、蝶吉はあたかも手籠にされたもののごとく、三人|懸りで身動きもさせない様子で、一|人は柄杓を取って天窓から水を浴びせておった。
— 泉鏡花 『湯島詣』 青空文庫
波もなき港の真昼、白銀の挿櫛撓みいま遠く二つら三つら水の上をすべると見つれ。
— 北原白秋 『邪宗門』 青空文庫
銀杏返を引約めて、本甲蒔絵の挿櫛根深に、大粒の淡色瑪瑙に金脚の後簪、堆朱彫の玉根掛をして、鬢の一髪をも乱さず、極めて快く結ひ做したり。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫
挿櫛は十まり七つありしかど、たけくの縁の朝にとりようさりにとり、取りしかは、挿櫛もなしや。
— 田山花袋 『道綱の母』 青空文庫
あまつさえお六|櫛を造る店の前では、がらにもなく挿櫛や鬢櫛を手にとって、仔細にその細工のあとを眺め、ふところから日誌をだして二、三種の形を写した上、値だんも聞かずに、またその先へぶらぶら歩いて行ってしまう。
— 木曾の巻 『鳴門秘帖』 青空文庫