那処
那処
名詞
標準
文例 · 用例
事|露はれて国法に背きたる罪を問はれなばそれまでなりと、深く地を掘りて密室をその中に造り設け、表面は那処へか棄てたるやうにもてなして父をば其室に忍ばせ置き、なほ孝養を尽しける。
— 幸田露伴 『印度の古話』 青空文庫
禽も啼かざる山間の物静かなるが中なれば、その声谿に応え雲に響きて岩にも侵み入らんばかりなりしが、この音の知らせにそれと心得てなるべし、筒袖の単衣着て藁草履穿きたる農民の婦とおぼしきが、鎌を手にせしまま那処よりか知らず我らが前に現れ出でければ、そぞろに梁山泊の朱貴が酒亭も思い合わされて打笑まれぬ。
— 幸田露伴 『知々夫紀行』 青空文庫
神酒をいただきつつ、酒食のたぐいを那処より得るぞと問うに、酒は此山にて醸せどその他は皆山の下より上すという。
— 幸田露伴 『知々夫紀行』 青空文庫
太陽は次第に冷えその熱は那処に在る。
— 幸田露伴 『努力論(現代訳)』 青空文庫
「那処に遠く些の小楊枝ほどの棒が見えませう、あれが旗なので、浅黄に赤い柳条の模様まで昭然見えて、さうして旗竿の頭に鳶が宿つてゐるが手に取るやう」「おや、さやうでございますか。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫
やがて静緒の持来りし水に漱ぎ、懐中薬など服して後、心地|復りぬとて又窓に倚りて外方を眺めたりしが、「ちよいと、那処に、それ、男の方の話をしてお在の所も御殿の続きなのですか」「何方でございます。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫
「付かない事をお聞き申すやうですが、那処にお父様とお話をしてゐらつしやるのは何地の方ですか」 彼の親達は常に出入せる鰐淵の高利貸なるを明さざれば、静緒は教へられし通りを告るなり。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫
那処に居て下さらなければ可けませんな。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫