黒塀
くろべい
名詞
標準
文例 · 用例
車で見た合歓の花は、あたかもこの庭の、黒塀の外になって、用水はその下を、門前の石橋続きに折曲って流るるので、惜いかな、庭はただ二本三本を植棄てた、長方形の空地に過ぎぬが、そのかわり富士は一目。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
と直ぐ出掛けようか、どうしようと、気抜のした姿うら寂しく、姉夫人も言なく、手を掛けていた柱を背に向直って、黒塀越に、雲切れがしたように合歓の散った、日曜の朝の青田を見遣った時、ぶつぶつ騒しい鍋の音。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
あの合歓の花が記念だから、夜中にあすこへ忍んで行く――虫の音や、蛙の声を聞きながら用水越に立っていて、貴女があの黒塀の中から、こう、扱帯か何ぞで、姿を見せて下すったら、どんなだろう。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
雪女は拵えの黒塀に薄り立ち、産女鳥は石地蔵と並んでしょんぼり彳む。
— 泉鏡花 『伯爵の釵』 青空文庫
ト斜に、がッくりと窪んで暗い、崕と石垣の間の、遠く明神の裏の石段に続くのが、大蜈蚣のように胸前に畝って、突当りに牙を噛合うごとき、小さな黒塀の忍び返の下に、溝から這上った蛆の、醜い汚い筋をぶるぶると震わせながら、麸を嘗めるような形が、歴然と、自分が瞳に映った時、宗吉はもはや蒼白になった。
— 泉鏡花 『売色鴨南蛮』 青空文庫
時次郎でない、頬被したのが、黒塀の外からヌッと覗く。
— 泉鏡花 『売色鴨南蛮』 青空文庫
……) とお言いのなり、三味線を胸に附着けて、フイと暗がりへ附着いて、黒塀を去きなさいます。
— 泉鏡花 『歌行燈』 青空文庫
森の中から背面の大畠が抜けられますと道は近うございますけれども、空地でもそれが出来ませんので、これから、ずっと煙硝庫の黒塀について、上ったり、下ったり、大廻りをなさらなければなりませぬ。
— 泉鏡花 『白金之絵図』 青空文庫