遇然
遇然
名詞
標準
文例 · 用例
二人は草原の丘で、図らずも感じ合つた、全く遇然の「罪の思ひ」を各々の胸の片隅に空怖しく蔵ひ込んだまゝ、釈然として、花やかな食卓につきました。
— 牧野信一 『舞踏会余話』 青空文庫
つい此間、彼が母と共に父の書類を整理した時、遇然周子の父親の名前になつてゐる借金証書を発見して、二人とも唖然とした。
— 牧野信一 『父の百ヶ日前後』 青空文庫
それで私は郷国の歴史を戦国時代あたりまで遡つてゐるうちに、遇然其処に私の絶大な興味を呼び起した一城主を発見して好奇の眼を輝かせてからといふものは、風土誌の仕事のことなどは打ち忘れて、ひたすらその城主の事蹟に就いての詳細な研究に惑溺する身と変つてゐた。
— 牧野信一 『熱い風』 青空文庫
そして、僕の口吟む「合唱」が、何といふわけもなく節をとらずに重々しく科白のやうに唸られたのが、遇然に階下の女房の耳に入り、外出しようとする僕の袂をとらへて「あなたは東京に来て以来何だかソワソワしてゐて妙だ。
— 牧野信一 『僕の運動』 青空文庫
その時彼は今眼を閉ぢたことに遇然な機会を見出した。
— 牧野信一 『爪』 青空文庫
」――暫らく沈黙を保つた後に、――重々しい、そして発言に遇然のやうな調子を加へて、「――狂人になるんぢやないかしら!
— 牧野信一 『爪』 青空文庫
さう思つた時私は遇然の悦びに雀躍りした。
— 牧野信一 『痴想』 青空文庫
――もう、それは大分前のことで東京にゐた頃であるが、隱岐は全く遇然の過失から、彌生に接吻だけを犯したことがあつた。
— 牧野信一 『痴日』 青空文庫