蜃気
しんき
名詞
標準
文例 · 用例
ふいに思ひがけなく、海上に浮んだ蜃気楼のやうな気がしたからだ。
— 萩原朔太郎 『散文詩集『田舎の時計 他十二篇』』 青空文庫
温泉場や避暑地の興味に於ける大部分は、一種のロマンチツクな夢幻的情趣――山巒の奥深く美しい生活の夢を捉へるといふやうな、言はば山間都市に対する蜃気楼的な幻想――にある。
— 萩原朔太郎 『石段上りの街』 青空文庫
沙漠にオアシスの蜃気楼を旅人が見るように、彼らは「愛」の蜃気楼さえをもさがし求めたので。
— 葉山嘉樹 『海に生くる人々』 青空文庫
その頃はまだ珍しかったスエズ運河を見、蜃気楼に欺されたりして、カイロに着き、そこから小船に乗ってナイル河を遡った。
— 寺田寅彦 『レーリー卿(Lord Rayleigh)』 青空文庫
二十歳代の青年期に蜃気楼のような希望の幻影を追いながら脇目もふらずに芸能の修得に勉めて来た人々の群が、三十前後に実世界の闘技場の埒内へ追い込まれ、そこで銘々のとるべきコースや位置が割り当てられる。
— 寺田寅彦 『厄年と etc.』 青空文庫
処へ、かの魚津の沖の名物としてありまする、蜃気楼の中の小屋のようなのが一軒、月夜に灯も見えず、前途に朦朧として顕れました。
— 泉鏡花 『湯女の魂』 青空文庫
それを陸上であけたら、奇怪な蜃気楼が立ち昇り、あなたを発狂させたり何かするかも知れないし、或いはまた、海の潮が噴出して大洪水を起す事なども無いとは限らないし、とにかく海底の酸素を陸上に放散させては、どうせ、ろくな事が起らないやうな気がしますよ。
— 太宰治 『お伽草紙』 青空文庫
今までの赤い瑪瑙の棘ででき暗い火の舌を吐いてゐたかなしい地面が今は平らな平らな波一つ立たないまっ青な湖水の面に変りその湖水はどこまでつづくのかはては孔雀石の色に何条もの美しい縞になり、その上には蜃気楼のやうにそしてもっとはっきりと沢山の立派な木や建物がじっと浮んでゐたのです。
— 宮沢賢治 『ひかりの素足』 青空文庫