放神
ほうしん
名詞
標準
文例 · 用例
依然として芬子嬢の顔を見下したまま唖然放神の体でいると、やがて涙を拭いた芬子嬢は、幾度もうなずきながら又|曰く……御もっともで御座います。
— 夢野久作 『ドグラ・マグラ』 青空文庫
けれどもそのうちに、さしもの大熱が奇蹟的に引いてしまうと、彼は一時、放神状態に陥ってしまった。
— 夢野久作 『木魂』 青空文庫
……放神したようにダラリと開いた唇、真赤に血走ったまま剥き出された両眼、放散した瞳孔、片跛に釣り上った眉。
— 夢野久作 『一足お先に』 青空文庫
◇ 又斎田惟成氏は比較的後進だったので特にこの方面の研究を急いだらしく、出勤の途中でも、銭湯の中でも妙な放神状態で両手を動かして地拍子の取り通しであった。
— 夢野久作 『梅津只圓翁伝』 青空文庫
薄暗いランプの下に、埃だけが積つてゐる円卓子を取り囲んだ連中は恰も鴉のやうな放神状態で、夫々の厭世的な姿を視守つてゐるだけであつた。
— 牧野信一 『酒盗人』 青空文庫
今日しも、朝まだきより、この海岸を東へ向って、行けども行けども、人煙を絶するのところに、境涯を忘れ、やがて、松林――古えは夥しく鹿を棲まわせて、奈良の春日の神鹿の祖はここから出でたという――その松林の間に打入って、放神悠々、写生の筆をとっていました。
— 年魚市の巻 『大菩薩峠』 青空文庫