嵌め木
はめき
名詞
標準
文例 · 用例
」と旧知にでも出っ逢したかのように、外函を撫でてみ、内函との寸分の隙間もない接触工合を調べてみ、一本の鋲や釘も使わぬ嵌め木の肩を叩いてみ、容器その物に、すでに無限の興趣を覚えているもののごとくであった。
— 橘外男 『ウニデス潮流の彼方』 青空文庫
書生に迎えられて、つる/\滑る嵌木細工の床の上を気をつけて股を拡げて足を運びながら天井を眺めますと夏蜜柑の皮の裏のように丸くぽっこり抉れている真ん中に大きな水晶の簪のようなシャンデリアが沢山のぴら/\を垂らして釣り下っています。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
おれはあわてて、泳ぐやうに飛びつきざま、忌々しい嵌木の床でつるりと足を滑らして危なく鼻柱を挫くところだつたが、やつと踏みこたへてその手巾を拾ひあげた。
— ZAPISKI SUMASHEDSHAWO 『狂人日記』 青空文庫
鍛冶屋は嵌木床のうへで辷りはせぬかと一歩々々に心を配りながら、びくびくして一同の後に従つた。
— VECHERA NA HUTORE BLIZ DIKANIKI 『ディカーニカ近郷夜話 後篇』 青空文庫
嵌木の床でもこするように自分の額をさする。
— LE VIGNERON DANS SA VIGNE 『ぶどう畑のぶどう作り』 青空文庫
食堂というのは、長持部屋のことなの」 アメリカの借家人は、もと長持部屋といっていた用途不明の一室をどういう向きに使ったのか、床は嵌木のモザイックにして、なまめかしい桃色の壁付灯をつけ、天井の漆喰は、首の長い白鳥と、腹の膨れたストリップの女神を組合わした、いかがわしい浮上げ模様になっていた。
— 久生十蘭 『我が家の楽園』 青空文庫
一歩は高く一歩は低く、猿猴のように肩で調子を取って歩む身体に、燕尾服を着けて跛を曳き曳き舞踏場の嵌木細工を踏む、社交界の笑われ者……ぶざまな道化の不具者!
— 橘外男 『陰獣トリステサ』 青空文庫
そして、花に繞まれた玄関には、アカンザス模様を彫刻した幾本かの大理石の円柱がそそり立ち、中へ踏み込めば、そこには大広間の嵌木細工の床の半ばを掩うて、月桂樹の老木が円天井を衝かんばかりに蓊鬱とした葉を繁らせて、その翠緑の色を傍の青苔の蒸した浴池が水に浸しているのであった。
— 橘外男 『ウニデス潮流の彼方』 青空文庫