腮髯
腮髯
名詞
標準
文例 · 用例
もう死骸になつて、何處かで腐つてゐるのではないかと、老僧よりも坊守りが悲嘆の涙にくれてゐたが、生死一如と觀念瞑目して、老僧は疎らな腮髯を扱きつゝ、新たに養女となつた絹子をば、生みの娘のやうに可愛がつてゐた。
— 上司小劍 『ごりがん』 青空文庫
その場内に大岡越前守|忠相の遺品が陳列してあったが、その中に子爵大岡忠綱氏の出品に係る鑷四丁があって、その説明書に「大岡越前守忠相ガ奉行所ニ於テ断獄ノ際、常ニ瞑目シテ腮髯ヲ抜クニ用ヒタルモノナリ」と記してあった。
— 穂積陳重 『法窓夜話』 青空文庫
漢学の先生に腮髯が付きもので、占者に山羊鬚が無くてはならんように、こう云う服装をしなくっては、画がうまそうに見えないと見える、しかし自画像で見るセガンティニは、神武天皇のような顔をして、服はまるで百姓みたいだ。
— 辻村伊助 『スウィス日記』 青空文庫
六畳間には、顔の長い、頬の削げた、そして窪んだ穴の中に鋭い眼のある老人が、漆黒の腮髯をしごいて、いつも書見か、墨池に親しんでいる。
— 吉川英治 『田崎草雲とその子』 青空文庫
その胸にはまた、張飛よりも長い腮髯がふっさりと垂れていた。
— 桃園の巻 『三国志』 青空文庫
突然、はッたと巨眼をいからして、羅門を睨みすえながら、ぬッくと立ち上がった眼前の人は、龍山公その人と思いのほか、白蛾の眉、長い腮髯、鬘、被布、ふくみ綿、すべての仮面を一時にかなぐり捨てれば、それは父性愛の権化か、捕物の神かとも見える老先生、塙江漢なのであった。
— 吉川英治 『牢獄の花嫁』 青空文庫