ぐる
ぐる
名詞
標準
文例 · 用例
手水つかうというが一騒、御膳たべるというが一混難、ようやく八時過ぐる頃に全く朝の事が済んだのである。
— 伊藤左千夫 『浅草詣』 青空文庫
危き橋をようように這いわたりて終に下り着くに滝のしぶき一面に雨の如く足もとより逆に吹きあぐるさますさまじく恐ろしく暫くも彳みかねつ。
— 伊藤左千夫 『滝見の旅』 青空文庫
やや十二時すぐる頃|帰て来ると。
— 伊藤左千夫 『牛舎の日記』 青空文庫
火気の満たる室にて頸やいたからん、振あぐる鎚に手首や痛からん」 女は破れ窓の障子を開らきて外面を見わたせば、向ひの軒ばに月のぼりて、此処にさし入る影はいと白く、霜や添ひ来し身内もふるへて、寒気は肌に針さすやうなるを、しばし何事も打わすれたる如く眺め入て、ほと長くつく息、月かげに煙をゑがきぬ。
— 樋口一葉 『軒もる月』 青空文庫
乳まいらせん」と懐あくれば、笑みてさぐるも憎くからず、「勿躰なや、この子といふ可愛きもあり。
— 樋口一葉 『軒もる月』 青空文庫
母が心の何方に走れりとも知らで、乳に倦きれば乳房に顔を寄せたるまゝ思ふ事なく寐入し児の、頬は薄絹の紅さしたるやうにて、何事を語らんとや、折々曲ぐる口元の愛らしさ、肥えたる腮の二重なるなど、かかる人さへある身にて、我れは二タ心を持ちて済むべきや。
— 樋口一葉 『軒もる月』 青空文庫
物ぐるほしけれど箱庭に作りたる石一つ水の面にそと取落せば、さゞ波すこし分れて、これにぞ月のかげ漂ひぬ。
— 樋口一葉 『あきあはせ』 青空文庫
故人がよみつる歌の事などさま/″\胸に迫りて、ほと/\涙もこぼれつべく、ゆかしさのいと堪へがたければ、閨の戸おして大空を打見あぐるに、月には横雲少しかゝりて、見わたす岡の若葉のかげ暗う、過ぎゆきけんかげも見えぬなん、いと口惜しうもゆかしうも唯身にしみて打ながめられき。
— 樋口一葉 『すゞろごと』 青空文庫