炙
炙
名詞
標準
文例 · 用例
後ではまた慚愧するのだとも思はないでもないのだが、これが私の人に親炙したい気持の満たし方であり又、かくすることによつて私は人に懐き、人を多少とも解するのである。
— 中原中也 『亡弟』 青空文庫
そこで、臨床的な話をするならば、先人の作品に、更めて親炙すること唯一つである。
— 中原中也 『撫でられた象』 青空文庫
囲炉裏に榾をさしくべ、岩魚の串刺にしたやつを炙りながら、山林吏が、さっき捨てた土饅頭は何だね、と案内の猟師に訊ねる、旦那、ありゃ飛騨の御大名の墳で、と右の一伍一什をうろ覚えのままに話す、役人は、そんな由緒のあるものと知ったら、何とか方法もあったものをと口惜しそうな顔をした。
— 小島烏水 『梓川の上流』 青空文庫
火が、ぴしぴし、音を立てて、盛に燃え出すと、樺の立木の葉が、鮮やかに、油紙の屋根に印して、劃然とした印画が炙り出される。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
私はもう、二十年ちかくも大鰐温泉を見ないが、いま見ると、やはり浅虫のやうに都会の残杯冷炙に宿酔してあれてゐる感じがするであらうか。
— 太宰治 『津軽』 青空文庫
また例えば山伏の橙汁の炙出しと見当をつけてから、それを検証するために検査実験を行って詐術を実証観破するのも同様である。
— 寺田寅彦 『西鶴と科学』 青空文庫
立處其の手足を炙るべく、炎々たる炭火を熾して、やがて、猛獸を拒ぐ用意の、山刀と斧を揮つて、あはや、其胸を開かむとなしたる處へ、神の御手の翼を擴げて、其膝、其手、其肩、其脛、狂ひまつはり、搦まつて、民子の膚を蔽うたのは、鳥ながらも心ありけむ、民子の雪車のあとを慕うて、大空を渡つて來た雁であつた。
— 泉鏡花 『雪の翼』 青空文庫
婦人の意地と、張とのために、勉めて忍びし鬱憤の、幾十倍の勢をもって今満身の血を炙るにぞ、面は蒼ざめ紅の唇|白歯にくいしばりて、ほとんどその身を忘るる折から、見遣る彼方の薄原より丈高き人物|顕れたり。
— 泉鏡花 『琵琶伝』 青空文庫