岨
そわ
名詞
標準
文例 · 用例
岩角に隠れた河岸の紅葉も残り少なく、千樫と予とふたりは霜深き岨路を急いだ。
— 伊藤左千夫 『白菊』 青空文庫
――処へ、土地ところには聞馴れぬ、すずしい澄んだ女子の声が、男に交って、崖上の岨道から、巌角を、踏んず、縋りつ、桂井とかいてあるでしゅ、印半纏。
— 泉鏡花 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫
見つけられまい、と背後をすり抜ける出合がしら、錠の浜というほど狭い砂浜、娘等四人が揃って立つでしゅから、ひょいと岨路へ飛ぼうとする処を、 ――まて、まて、まて―― と娘の声でしゅ。
— 泉鏡花 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫
その年は八月中旬、近江、越前の国境に凄じい山嘯の洪水があって、いつも敦賀――其処から汽車が通じていた――へ行く順路の、春日野峠を越えて、大良、大日枝、山岨を断崕の海に沿う新道は、崖くずれのために、全く道の塞った事は、もう金沢を立つ時から分っていた。
— 泉鏡花 『栃の実』 青空文庫
見上ぐる山の巌膚から、清水は雨に滴って、底知れぬ谷暗く、風は梢に渡りつつ、水は蜘蛛手に岨を走って、駕籠は縦になって、雲を仰ぐ。
— 泉鏡花 『栃の実』 青空文庫
――其年活けた最初の錦木は、奥州の忍の里、竜胆は熊野平碓氷の山岨で刈りつゝ下枝を透かした時、昼の半輪の月を裏山の峰にして、ぽかんと留まつたのが、……其の木兎で。
— 泉鏡花 『玉川の草』 青空文庫
」 実は、この段、囁き合って、ちょうどそこが三岐の、一方は裏山へ上る山岨の落葉の径。
— 泉鏡花 『唄立山心中一曲』 青空文庫
あくる日|岨道を伝いますと、山から取った水樋が、空を走って、水車に颯と掛ります、真紅な木の葉が宙を飛んで流れましたっけ、誰の血なんでございましょう。
— 泉鏡花 『唄立山心中一曲』 青空文庫