燻
いぶし
名詞
標準
文例 · 用例
あるものはのどかに煙草を燻らし、あるものは所在なげに室の中を歩きまはつてゐたが、這入つて來た彼れの姿を見ると一寸改つて挨拶した。
— 有島武郎 『實驗室』 青空文庫
黒い夜草深い野の中で、一匹の獣の心は燻る。
— 亡き児文也の霊に捧ぐ 『在りし日の歌』 青空文庫
此処では薪が燻つてゐる、その煙は、自分自らを知つてでもゐるやうにのぼる。
— 亡き児文也の霊に捧ぐ 『在りし日の歌』 青空文庫
誘はれるでもなく覓めるでもなく、私の心が燻る……冬の明け方残んの雪が瓦に少なく固く枯木の小枝が鹿のやうに睡い、冬の朝の六時私の頭も睡い。
— 亡き児文也の霊に捧ぐ 『在りし日の歌』 青空文庫
一夜作りの屋根――樅の青枝を解き施して、焚火に燻ゆらしてしまう、どんなに山が荒れても、この谷底まで退かない決心である、脂の臭いのする烟は、シュウシュウと呻りながら霧に交わって※ってゆく。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
厚味の雲の奥で、日が茜さしたのか、東の空が一面に古代紫のように燻んだ色になった……富士の鼠色は爛れた……淡赭色の光輝を帯びたが、ほんの瞬く間でもとの沈欝に返って、ひッそりと静まった。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
彼一人でおもてを燻べ上げるに充分であった。
— 葉山嘉樹 『海に生くる人々』 青空文庫
散った跡の河岸に誰かが焚きすてた焚火の灰がわずかに燻って、ゆるやかな南の風に靡いていた。
— 寺田寅彦 『雑記(2)』 青空文庫