恋ふ
こいふ
名詞
標準
文例 · 用例
我が心は清めるか濁れるか」 封じ目ときて取出せば一尋あまりに筆のあやもなく、有難き事の数々、辱じけなき事の山々、思ふ、恋ふ、忘れがたし、血の涙、胸の炎、これ等の文字を縦横に散らして、文字はやがて耳の脇に恐しき声もて※くぞかし。
— 樋口一葉 『軒もる月』 青空文庫
〔まひるつとめにまぎらひて〕宮沢賢治まひるつとめにまぎらひてきみがおもかげ来ぬひまはこころやすらひはたらきしそのことなにかねたましき新月きみがおももちをつきの梢にかゝぐれば凍れる泥をうちふみてさびしく恋ふるこゝろかな
— 宮沢賢治 『〔まひるつとめにまぎらひて〕』 青空文庫
天上の松を恋ふるより、祈れるさまに吊されぬ。
— 萩原朔太郎 『月に吠える』 青空文庫
天上の松を恋ふるより、祈れるさまに吊されぬ といふ天上縊死の一章を見ても、どれだけ彼が苦しんだことかが判る。
— 萩原朔太郎 『月に吠える』 青空文庫
『稚な母』って題で連作でしたよ」「…………」「沢山あった歌のなかで一つだけ覚えてて僕暗記してます――鏡のなかに童顔写るこのわれがあはれ子を恋ふる母かと泣かゆ――ねえ、そうでしたね」 突然、かの女は規矩男と若い男女のように並んで歩いている自分に気がついた。
— 岡本かの子 『母子叙情』 青空文庫
この老いにしてなほ触るれば物を貪り恋ふるこころのたちまち鎌首をもたげて来るのに驚かれた。
— 岡本かの子 『上田秋成の晩年』 青空文庫
そして、貪り恋ふる目標物の縹眇として捕捉し難いのにも自分|乍ら驚かれた。
— 岡本かの子 『上田秋成の晩年』 青空文庫
ただ有り合ふ世だけに当嵌めて、その場その場に身を生すことを考へて来た――事実、恋ふべき過去でも無い、信じられる未来とも思へなかつた、業風の吹くままに遊び散らし、書き散らし、生き散らして来たと思へる生涯が、なぜか今宵は警めなしに顧りみられる。
— 岡本かの子 『上田秋成の晩年』 青空文庫