擦れ違い
すれちがい
名詞
標準
文例 · 用例
レールに近く養蚕広告のペンキ塗の看板が、鉛のような鉱物性の色をして、硬く平ったく烈しい日の光に向って立っていたが、汽車と擦れ違いさまに、仆れそうになって、辛くも踏み止まった。
— 小島烏水 『谷より峰へ峰より谷へ』 青空文庫
」 庸三は腹ん這いになって煙草をふかしていたが、彼女の計算の不正確と、清川の認識不足との擦れ違いも分明すぎる感じだった。
— 徳田秋声 『仮装人物』 青空文庫
」 腕車と擦れ違いに声をかけたのは、青ッぽい双子の着物を着たお銀であった。
— 徳田秋声 『黴』 青空文庫
少々退屈になったから、少し外へ出て見ようかと室の戸口をまたぐ途端に、背広を着た髯のある男が擦れ違いながら「もう直です二時四十五分ですから」と云った。
— 夏目漱石 『趣味の遺伝』 青空文庫
雄吉は、ある晩十一時頃に、寄宿舎へ帰ろうとして、大きな闇を湛えている運動場の縁を辿っていると、ふと自分と擦れ違いざまに、闇の中へ吸い込まれるように運動場の方へ急いでいる青年があった。
— 菊池寛 『青木の出京』 青空文庫
彼等と擦れ違いに、時計屋が洞穴のように糜れた眼玉を窪ませて帰って来た。
— 里村欣三 『放浪の宿』 青空文庫
擦れ違いざま久慈は、不必要なまでに厳しい金属性の響きが髄に刺さるのを感じた。
— 横光利一 『旅愁』 青空文庫
濠の底で電車の黒い屋根が二つ擦れ違いざまに流れているのを眼で追いつつ、矢代はそれも亀板面に顕れた二つ巴の周囲を円廻する光の波の函数の図と同様に見え、面白かった。
— 横光利一 『旅愁』 青空文庫