寰
寰
名詞
標準
文例 · 用例
村の夕暮れのにぎわいは格別で、壮年|男女は一日の仕事のしまいに忙しく子供は薄暗い垣根の陰や竈の火の見える軒先に集まって笑ったり歌ったり泣いたりしている、これはどこの田舎も同じことであるが、僕は荒涼たる阿蘇の草原から駆け下りて突然、この人寰に投じた時ほど、これらの光景に搏たれたことはない。
— 国木田独歩 『忘れえぬ人々』 青空文庫
男子志を立て理想を追ふて、今や森林の中に自由の天地を求めんと願ふ時、決して女々しくてはならぬと我とわが心を引立るやうにしたが、要するに理想は冷やかにして人情は温かく、自然は冷厳にして親しみ難く人寰は懐かしくして巣を作るに適して居る。
— 國木田独歩 『空知川の岸辺』 青空文庫
山の麓に見ゆるは土河内村なり、谷迫りて一|寰区をなしことさらに世と離れて立つかのごとく見ゆ、かつて山の頂より遠くこの村を望み炊煙の立ちのぼるを見てこの村懐かしくわれは感じぬ。
— 国木田独歩 『小春』 青空文庫
それであるから、自分の目には彼が半身に浴びている春の夕陽までがいかにも静かに、穏やかに見えて、彼の尺八の音の達く限り、そこに悠々たる一|寰区が作られているように思われたのである。
— 国木田独歩 『女難』 青空文庫
日常人事の交渉にくたびれ果てた人は、暇があったら、むしろ一刻でも人寰を離れて、アルプスの尾根でも縦走するか、それとも山の湯に浸って少時の閑寂を味わいたくなるのが自然であろう。
— 寺田寅彦 『銀座アルプス』 青空文庫
厚朴 ほゝは、山深きあたりの高き梢に塵寰の汚れ知らず顔して、たゞ青雲を見て嘯き立てる、気高さ比へんかた無し。
— 幸田露伴 『花のいろ/\』 青空文庫
而して會※その街を過ぐる一行ありしがために、此一|寰區は特に明かなる印象を我心裡に留むることを得たり。
— IMPROVISATOREN 『即興詩人』 青空文庫
彩雲閣から僅に五六丁足らずで、早くも人寰を離れ、俗塵の濁りを留めないところ、峻峭相連らなつて少からず目を聳たしめる。
— 北原白秋 『日本ライン』 青空文庫