荵
しのぶ
名詞
標準
文例 · 用例
」ありたけの飛石――と言っても五つばかり――を漫に渡ると、湿けた窪地で、すぐ上が荵や苔、竜の髯の石垣の崖になる、片隅に山吹があって、こんもりした躑躅が並んで植っていて、垣どなりの灯が、ちらちらと透くほどに二、三輪|咲残った……その茂った葉の、蔭も深くはない低い枝に、雀が一羽、たよりなげに宿っていた。
— 泉鏡花 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫
」 と遣瀬なげに、眉をせめて俯目になったと思うと、まだその上に――気障じゃありませんか、駈出しの女形がハイカラ娘の演るように――と洋傘を持った風采を自ら嘲った、その手巾を顔に当てて、水髪や荵の雫、縁に風りんのチリリンと鳴る時、芸妓島田を俯向けに膝に突伏した。
— 泉鏡花 『第二菎蒻本』 青空文庫
」「おかわいそうな方のですもの、これ、荵摺ですよ。
— 泉鏡花 『縷紅新草』 青空文庫
軒前に、不精たらしい釣荵がまだ掛って、露も玉も干乾びて、蛙の干物のようなのが、化けて歌でも詠みはしないか、赤い短冊がついていて、しばしば雨風を喰ったと見え、摺切れ加減に、小さくなったのが、フトこっち向に、舌を出した形に見える。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
例の枯荵の怪しい短冊の舌は、この時|朦朧として、滑稽が理に落ちて、寂しくなったし、鶏頭の赤さもやや陰翳ったが、日はまだ冷くも寒くもない。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
写真館の二階窓で、荵の短冊とともに飜った舌はこれである。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
」「驕る平家ね、揚羽の蝶のように、まだ釣荵がかかっていますわ。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
截り立ったような梢は葉を参差していて、井戸の底にいるような位置の私には、草荵の生えた井の口を遙かに覗き上げている趣であった。
— 岡本かの子 『河明り』 青空文庫