蹴躓
蹴躓
名詞
標準
文例 · 用例
五人女にも、於七が吉三のとこへ夜決心してしのんで行つて、鈴に蹴躓き、からからと大音響、傍に寝てゐる小僧が眼をさまして、あれ、おぢやうさんは、よいことを、と叫ばれ、ひたと両手合せて小僧にたのみいる、ところがあつたと覚えてゐるが、あの思はざる鈴の音には読むものすべて、はつと魂消したにちがひない。
— 太宰治 『音について』 青空文庫
惣助は盥のまわりをはげしくうろついて歩き、とうとう盥に蹴躓いて盥のお湯を土間いちめんにおびただしくぶちまけ母者人に叱られた。
— 太宰治 『ロマネスク』 青空文庫
証人の上がる壇に蹴躓いたりするのも自然らしく見えた。
— 寺田寅彦 『初冬の日記から』 青空文庫
寸法を知らず、間拍子の分らない、まんざらの素人は、盲目聾で気にはしないが、ちと商売人の端くれで、いささか心得のある対手だと、トンと一つ打たれただけで、もう声が引掛って、節が不状に蹴躓く。
— 泉鏡花 『歌行燈』 青空文庫
アイスクリームか、ぶっかきか、よくも見ないで、すたすた、どかどか、がらん、うしろを見られる極りの悪さに、とッつき玄関の植込の敷石に蹴躓いて、ひょろ、ひょろ。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
」と口も足も、学士は蹴躓いたようであった。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
川柳に、(歌一つあつて話にけつまづき)と云ふのがあると、何時かも笑つて居りました、成程其の通りと感心しましたのが、今度は身の上で、歌があつて蹴躓きまして、部屋がしらに笑はれますのが、手前口惜しいと存じまして、へい。
— 泉鏡太郎 『片しぐれ』 青空文庫
長袴は辷る、上下は蹴躓く、茶坊主は転ぶ、女中は泣く。
— 泉鏡花 『妖魔の辻占』 青空文庫