肉情
にくじょう
名詞
標準
文例 · 用例
彼女を非時代的な偶像型の女と今更憐みや軽蔑を感じながら、復一はまた急に焦り出し、彼女の超越を突き崩して、彼女を現実に誘い出し、彼女の肉情と自分の肉情と、血で結び付きたい願いが、むらむらと燃え上る。
— 岡本かの子 『金魚撩乱』 青空文庫
意志に礙って肉情はほとんどその方へ融通してしまった木人のような復一はこれを見るとどうやらほんのり世の中にいろ気を感じ、珍らしく独りでぶらぶら六本木の夜町へ散歩に出たり、晩飯の膳にビールを一本註文したりするのだった。
— 岡本かの子 『金魚撩乱』 青空文庫
復一の胸は張り膨らまって、木の根、岩角にも肉体をこすりつけたいような、現実と非現実の間のよれよれの肉情のショックに堪え切れないほどになった。
— 岡本かの子 『金魚撩乱』 青空文庫
自分が出来損いとして捨てて顧みなかった金魚のなかのどれとどれとが、いつどう交媒して孵化して出来たか」 こう復一の意識は繰り返しながら、肉情はいよいよ超大な魅惑に圧倒され、吸い出され、放散され、やがて、ただ、しんと心の底まで浸み徹った一筋の充実感に身動きも出来なくなった。
— 岡本かの子 『金魚撩乱』 青空文庫
檜垣の主人が持ち帰ったのは主にフランス近代の巨匠のものだったが、本能を許し、官能を許し、享受を許し、肉情さえ許したもののあることは東洋の躾と道徳の間から僅にそれ等を垣間見させられていたものに取っては驚きの外無かった。
— 岡本かの子 『食魔』 青空文庫
かの女はそろ/\出かかつた月の光を吸ひつゝ木の茂みから来る理智的な湿り気と、大地から蒸発する肉情的な蘊気の不思議な交錯の中に漂渺とした気持ちになつて、いくつか生垣について角を折れ曲つた。
— 岡本かの子 『夏の夜の夢』 青空文庫
取り付きようもない娘の心にせめて親子の肉情を繋ぎ置き度い非情手段から、翁は呪いという逆手で娘の感情に自分を烙印したのだったが、必要以上に娘を傷けねばよいが。
— 岡本かの子 『富士』 青空文庫
いくらよごれていても緊密に結ばれた男女の形には、若い身空の肉情に疼き入る何物かゞあるのでございましょう。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫