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谷底

たにぞこ異読 たにそこ
名詞
1
標準
valley floor
文例 · 用例
一夜作りの屋根――樅の青枝を解き施して、焚火に燻ゆらしてしまう、どんなに山が荒れても、この谷底まで退かない決心である、脂の臭いのする烟は、シュウシュウと呻りながら霧に交わって※ってゆく。
小島烏水 白峰山脈縦断記 青空文庫
岩の上には、浦島ツツジ、ツガサクラ、コケモモなどが、平ッたくしがみついている、私は岩角に身を倚せて、眼下遥かに低い谷底を見た、雲と霧と入り乱れて、フツ、フツと山上目がけて来る、その裂け目から谷を隔てて赤石山脈の大嶺、その間に、また谷を隔てて早川の連嶺が、幾析となく重なって、不安な光輝を放っている。
小島烏水 白峰山脈縦断記 青空文庫
峰から峰の偃松は、暴風雨のあとの海原のように凪いで、けろりと静まりかえっている、谷底の風の呻吟は、山の上が静粛になるだけ、それだけ、一層|凄まじく高く響いて来る。
小島烏水 白峰山脈縦断記 青空文庫
夜になって空に星はあったが、電光が白い柱を、谷の中に投げては、夜営の人々をおどろかした、夜半には、秋雨が音なく注いだ、川縁に転がっている流材を焚火にして、寒さを凌いだ、針葉樹の切崖で囲んだ、瓶のように窄い谷底からは、天も谷川ほどの細さで流れている。
小島烏水 白峰山脈縦断記 青空文庫
石小舎の前には、樺や偃松が、少しは生えて、生々しい緑が捨てられている、谷底一杯は石の破片で埋まっていると言って、いいくらいで、白壁のような残雪が、崖の腹からくずれかかってその破れ石の上を、継ぎ剥ぎに縫っている。
小島烏水 谷より峰へ峰より谷へ 青空文庫
深い谷底のような、掘鑿に四つの小さい眼が注がれた。
葉山嘉樹 坑夫の子 青空文庫
劣者の道の谷底の漸近線までの部分は優者の道の倒影に似ている。
寺田寅彦 厄年と etc. 青空文庫
そして谷底まで下りた人の多数はそのままに麓の平野を分けて行くだろうし、少数の人はそこからまた新しい上り坂に取りつきあるいはさらに失脚して再び攀上る見込のない深坑に落ちるのであろうが、そのような岐れ路がやはりほぼ四十余歳の厄年近辺に在るのではあるまいか。
寺田寅彦 厄年と etc. 青空文庫