来鳴
らいなる
名詞
標準
文例 · 用例
雁金が寒く来鳴き、新治の鳥羽の淡海も秋風に白浪立つ頃ともなれば、女は自分が先に立ち奴たちを率いて、裾わの田井に秋田を刈った。
— 岡本かの子 『富士』 青空文庫
緑こまかき神経の悲しみの径、園の奥、金の光にわけ入ればアスパロガスの葉のかげに涙はしじにふりそそぎ、小鳥来鳴かず、君見えず、空も盲ひし真昼時、白く悲しく、数あまた釣鐘の花咲きにけり。
— 北原白秋 『緑の種子』 青空文庫
春や来しと覚ゆるなるに、我牢室を距ること数歩の地に、黄鳥の来鳴くことありて、我耳を奪ひ、我魂を奪ひ、我をしてしばらく故郷に帰り、恋人の家に到る思ひあらしむ、その声を我が恋人の声と思ふて聴く時に、恋人の姿は我前にあり、一笑して我を悩殺する昔日の色香は見えず、愁涙の蒼頬に流れて、紅ゐ闌干たるを見るのみ。
— 北村透谷 『我牢獄』 青空文庫
十三の少女は、いづくにかしるしの糸はつけつらむ 年々来鳴くつばくらめかなという、生気のある愛くるしい歌をつくったりしている。
— 宮本百合子 『婦人と文学』 青空文庫
極楽鳥のめでたきとは うたたねの夢路に人の逢ひにこし蓮歩のあとを思ふ雨かな であり 春の磯恋しき人の網もれし小鯛かくれて潮けぶりしぬ であり 来鳴かぬを小雨降る日は鶯も玉手さしかへ寝るやと思ふ であり 恋人の逢ふが短き夜となりぬ茴香の花橘の花 である。
— 平野萬里 『晶子鑑賞』 青空文庫
今こそは、声の干蟹、来鳴きとよまめ(同巻十)B○……こゝだくも我が守るものを。
— ――語尾「し」の発生―― 『形容詞の論』 青空文庫
うれたきやしこほとゝぎす……追へど/\尚し来鳴きて、徒らに土に散らせば……(同巻八)尠くとも、Aに属するものは、明らかに「かしこき……」・「うれたき……」と言ふ風に、熟語の形を採つてゐるものと見られる。
— ――語尾「し」の発生―― 『形容詞の論』 青空文庫
此春翁と前後して北へ帰った雁がまた武蔵野の空に来鳴く時となった。
— 徳冨健次郎 『みみずのたはこと』 青空文庫