稲塚
いなづか
名詞
標準
文例 · 用例
御存じの通り、稲塚、稲田、粟黍の実る時は、平家の大軍を走らした水鳥ほどの羽音を立てて、畷行き、畔行くものを驚かす、夥多しい群団をなす。
— 泉鏡花 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫
人形使 (無言のまま睨むがごとく見詰めつつ、しばらくして、路傍に朽ちし稲塚の下の古縄を拾い、ぶらりと提げ、じりじりと寄る。
— 泉鏡花 『山吹』 青空文庫
あの稲塚がむくむくと動き出しはしないか、一つ一つ大きな笠を被た狸になって、やがては誘い合い、頷きかわし、寄合って手を繋ぎ、振向いて見返るのもあって、けたけたと笑出したらどうだろう。
— 遺稿 『遺稿』 青空文庫
宿縁に因って仏法を信じ、霊地を巡拝すると聞く、あの海豚の一群が野山の霧を泳いで順々に朦朧と列を整えて、ふかりふかりと浮いつ沈んつ音なく頭を進めるのに似て、稲塚の藁の形は一つ一つその頂いた幻の大な笠の趣がある。
— 遺稿 『遺稿』 青空文庫
里馴れたものといえば、ただ遥々と畷を奥下りに連った稲塚の数ばかりであるのに。
— 遺稿 『遺稿』 青空文庫
その姿が山入の真暗な村へは向かず、道の折めを、やや袖ななめに奥の院へ通う橋の方へ、あの、道下り奥入りに、揃えて順々に行方も遥かに心細く思われた、稲塚の数も段々に遠い処へ向ったのである。
— 遺稿 『遺稿』 青空文庫
彼女は、藁を積んだ、こんもりした稲塚の蔭から、嘲りの笑いを笑って、「ホ、ホ、ホ、ホ!
— 三上於菟吉 『雪之丞変化』 青空文庫
平馬を、水月に一本入れて、その場に絶気させた雪之丞が、稲塚の方へ突進して行ったときには、もう三町も先きを、黒い影が、風のように、煙のように駆け去っているのだった。
— 三上於菟吉 『雪之丞変化』 青空文庫