摩天
まてん
名詞
標準
文例 · 用例
元来アメリカにジャズ音曲とナンセンス映画とが流行する事実は、かの国に古い意味での哲学と科学と芸術の振るわない事実の半面であって、そのかわりに黄金哲学と鉄コンクリート科学と摩天楼犯罪芸術の発達するゆえんであろう。
— 寺田寅彦 『映画時代』 青空文庫
三階の廊下から見上げた山腹の各旅館の、明るく灯のともつた室々の障子の列が上へ上へと暗い夜空の上に累積してゐる光景は、龍宮城のやうに、蜃氣樓のやうに、又ニユーヨークの摩天樓街のやうにも思はれた。
— 寺田寅彦 『伊香保』 青空文庫
夜明前には奥漢鉄路で捕えられた二百名からの党員が銃殺されて、珠江に投げ棄てられた死体が河畔の摩天楼の下に櫛比して河底に埋もれ、蛋民によって水葬されたのだ。
— 吉行エイスケ 『地図に出てくる男女』 青空文庫
」 摩天楼の鏡の面からつやぶきんをとるために、私は、藍色のカーテンで市街に向ってひらいた窓を閉ざすと、「――それよりか、君のコオセット・ボタンがいくつあるか計算さしてもらいたいもんだね。
— 吉行エイスケ 『大阪万華鏡』 青空文庫
このアメリカ魂は、摩天楼のレコードを作ると同時にギャング犯罪のレコードをも造りだすであろう。
— 寺田寅彦 『記録狂時代』 青空文庫
しかしそれは明らかに誤りであって、一掴みに余りある微少の種子から、摩天の大樹が生じることを理解したならば、その些細なこともまた必ずしも些細なことで終るとは限らないことを理解することだろう。
— 幸田露伴 『努力論(現代訳)』 青空文庫
それがいかにも、摩天楼という名にふさわしく、空も山も、為にちいさくみえる豪華さです。
— 田中英光 『オリンポスの果実』 青空文庫
ニューヨークの摩天楼のてっぺんから、真逆様に墜落するときに感ずるでもあろうような、何とも施しようのない、ただ落ちるがままにまかせておくよりほかに仕方のないような宿命を感じた。
— 平林初之輔 『犠牲者』 青空文庫