箇中
箇中
名詞
標準
文例 · 用例
この故に観音経を誦するもあえて箇中の真意を闡明しようというようなことは、いまだかつて考え企てたことがない。
— 泉鏡花 『おばけずきのいわれ少々と処女作』 青空文庫
凡そ智能が世に先だちて羣を拔くの人は、蓋し多く如是の光景に遭遇して、箇中の滋味を知れるより、他人の視て以て難しとなすところを敢てし得たのである。
— 幸田露伴 『努力論』 青空文庫
あとには留守部隊がのこっていたが、これには臨時に、三|箇中隊の高射砲隊が配属されていた。
— 海野十三 『空襲警報』 青空文庫
五日前の午後不安な氣持で通つた道を今日は朝の光の中に見ながら、いつしか國境を越えて、サン・ヂャン・ド・リュズもビアリッツも左の方に眺め、バイヨンヌの町を通り過ぎると、町はづれの木立に取り圍まれた草原の上で、一箇中隊もあらうかと思はれる兵隊が、極めて基本的な訓練をさせられてゐた。
— 野上豐一郎 『大戰脱出記』 青空文庫
巨人のような植物で、赤い幹は小屋ほどの大きさがあり、その周囲の広い樹蔭では歩兵一箇中隊でも演習が出来たろう。
— 宝島 『宝島』 青空文庫
その後太平洋戦争の真っ最中、筆を執ることさえ稀になった私と江戸川乱歩氏は、自分の持って居る涙香の著書の目録を見せ合って、互に重複したものを交換し合い、騒がしい世の姿とかけ離れて、静かに涙香物の醍醐味に没頭し、箇中の境地を楽しんだことは、個人的な思い出ではあるが、まことに忘れ難い記憶である。
— 野村胡堂 『涙香に還れ』 青空文庫
禅僧がよく「這裏」とか「箇裏」とか「箇中」とかいうが、面白い表現で「現下のこのもの」という意である。
— 柳宗悦 『民藝四十年』 青空文庫
季題は勿論朝顔にあるけれども、朝顔の咲く時に当って桃の下葉が散りはじめるという、交錯した事実を描いたために、子規居士のいわゆる二箇中心の句のような趣になっている。
— 柴田宵曲 『古句を観る』 青空文庫