押し当て
おしあて
名詞
標準
文例 · 用例
父は冷えたわが子を素肌に押し当て、聞き覚えのおぼつかなき人工呼吸を必死と試みた。
— 伊藤左千夫 『奈々子』 青空文庫
多くの姉妹らはいまさらのごとく声を立てて泣く、母は顔を死児に押し当ててうつぶしてしまった。
— 伊藤左千夫 『奈々子』 青空文庫
投げ出してるわが子の足に自分の手を添えその足をわが顔へひしと押し当てて横顔に伏している妻は、埋葬の話を聞いてるか聞いていないか、ただ悲しげに力なげに、身をわが子の床に横たえている。
— 伊藤左千夫 『奈々子』 青空文庫
母は、父のおっしゃる言葉をちっとも聞こうとなさらず、腕を伸ばして私の傍の七輪のお鍋を、どさんと下におろして、あちちと言って右手の親指と人さし指を唇に押し当て、「おう熱い、やけどしちゃった。
— 太宰治 『千代女』 青空文庫
「いいえ、反対といふのではなく、」私は右の手のひらを、そつと卓の上に押し当て、「おまへひとりで、やれ、といふ工合ひらしく思はれます。
— 太宰治 『富嶽百景』 青空文庫
その人は、腹掛けのどんぶりに、私を折り畳まずにそのままそっといれて、おなかが痛いみたいに左の手のひらを腹掛けに軽く押し当て、道を歩く時にも、電車に乗っている時にも、つまり銀行から家へと、その人はさっそく私を神棚にあげて拝みました。
— 太宰治 『貨幣』 青空文庫
その人は、腹掛けのどんぶりに、私を折り畳まずにそのままそっといれて、おなかが痛いみたいに左の手のひらを腹掛けに軽く押し当て、道を歩く時にも、電車に乗っている時にも、つまり銀行から家へ帰りつくまで、左の手のひらでどんぶりをおさえきりにおさえていました。
— 太宰治 『貨幣』 青空文庫
ほんとうに、その人は、生れて来なかったほうが、よかった」と意外にはっきりした語調で言って、一つまみのパンをとり腕をのばし、あやまたず私の口にひたと押し当てました。
— 太宰治 『駈込み訴え』 青空文庫