櫓拍子
ろびょうし
名詞
標準
文例 · 用例
帰命頂礼、賽ころ明神の兀天窓、光る光る、と追従云うて、あか柄杓へまた一杯、煽るほどに飲むほどに、櫓拍子が乱になって、船はぐらぐら大揺れ小揺れじゃ、こりゃならぬ、賽が据らぬ。
— 泉鏡花 『草迷宮』 青空文庫
上げ汐の真近時になると、いずれの船からも陣鉦、法螺の貝などを鳴らし立てて、互いにその友伴れをあつめ、帰りは櫓拍子に合わせて三味線の連れ弾きも気勢いよく、歌いつ踊りつの大陽気、相伴の船夫までが一杯機嫌に浮れ出して存外馬鹿にもならぬ咽喉を聞かすなぞ、どこまでも面白く出来ている。
— 柴田流星 『残されたる江戸』 青空文庫
五月の潮の、ふくれきった水面は、小松の枝振りの面白い、波|除けの土手に邪魔もされず、白帆をかけた押送り船が、すぐ眼の前を櫓拍子いさましく通ってゆくのが見える。
— 長谷川時雨 『朱絃舎浜子』 青空文庫
鰹舟の櫓拍子が仄かに聞こえる。
— 徳冨健次郎 『みみずのたはこと』 青空文庫
それは彼の俊敏な五官の一つに響いて来たものの音、やや遠く近く、櫓拍子の音が、この海から聞え出したからです。
— 勿来の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
そこで思い乱れた茂太郎は、前後の思慮もなく、大声をあげてしまいました、「マドロスさあーん」 舟の櫓拍子は相変らず聞えるけれども、返事はありません。
— 勿来の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
勢いよく、小舟の櫓を押しきっている宇治山田の米友は、櫓拍子につれて、十七姫御が旅に立つそれを殿御が聞きつけてとまれとまれと…… 思わず知らず、うたい慣れた鼻唄が鼻の先へ出たのですが、何としたものか、急に、ぷっつりと鼻唄を断ち切った時、そのグロテスクの面に、一脈の悲愴きわまりなき表情が浮びました。
— 恐山の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
そこで、ぷっつりと得意の鼻唄を断ち切って、悲愴きわまりなき表情を満面に漲らしてみたが、やがて櫓拍子は荒らかに一転換を試みて、さっさ、押せ押せ下関までも押せば湊が近くなるさっさ、押せ押せそれ押せ―― 実に荒っぽい唄を、ぶっ切って投げ出すような調子に変りました。
— 恐山の巻 『大菩薩峠』 青空文庫