薄ら甘い
うすらあまい
形容詞
標準
文例 · 用例
そして、胸先が、擽つたいやうな、変に悲しいやうな、薄ら甘い涙みたいな感じで、一杯だつた。
— 牧野信一 『陽に酔つた風景』 青空文庫
さうなると相手の心を静かに汲み取り、そして自分も薄ら甘い何かに咽び入る性質の川瀬は、横を向いて困つた笑ひを浮べた。
— 牧野信一 『蝉』 青空文庫
五月の薄ら甘い朝の陽が、爽やかな感触で、さつき剃刀をあてたばかしの彼の頬にヒリヒリと、光るやうに沁みた。
— 牧野信一 『或る五月の朝の話』 青空文庫
少しく無法過ぎるところが不快だが、もう死んでしまつた父の話である、そして昔のことである、お伽噺のやうなものだ――彼は、お伽噺の主人公である父の衣服を借着して、遥々と海を越えて行く薄ら甘い情けなさに酔つた。
— 牧野信一 『「悪」の同意語』 青空文庫
――寝室に駆け込んで、突ツ伏してゐる百合子の姿が、あのまゝで、何時の間にか薄ら甘い疑問の、そして夢のやうな画になつて印象に残つて来た。
— 牧野信一 『南風譜』 青空文庫
そんな恐れと、娘のふくよかな頬の魅力と、そして薄ら甘いメルヘン気分の陶酔とが、しばらくの間眼の先で火花を散らしてゐたが、「ぢや、ドリアンはこゝにおき放しにして行くわよ。
— 牧野信一 『ダイアナの馬』 青空文庫
これで眠気さへなかつたならば――」と彼も空を仰いだが、朝の、ゆらゆらと浮游してゐる眠気には薄ら甘い陶酔を覚えた。
— 牧野信一 『F村での春』 青空文庫
……さうかと思ふと、ふと、今迄気づきもしなかつた妙に薄ら甘いやうな懶さが、何となく花やかな翼に胸先きで撫でられでもするやうな悩ましさともつれて、軽い恍惚を覚えた。
— 牧野信一 『山を越えて』 青空文庫