掻切
掻切
名詞
標準
文例 · 用例
御先祖の霊前に近く、覚悟はよいか、嬉しゅうござんす、お妻の胸元を刺貫き――洋刀か――はてな、そこまでは聞いておかない――返す刀で、峨々たる巌石を背に、十文字の立ち腹を掻切って、大蘇芳年の筆の冴を見よ、描く処の錦絵のごとく、黒髪山の山裾に血を流そうとしたのであった。
— 泉鏡花 『開扉一妖帖』 青空文庫
最早|新に燭火を点候にも及ばず、窓の雪明りにて、皺腹掻切候ほどの事は出来申すべく候。
— 森鴎外 『興津弥五右衛門の遺書(初稿)』 青空文庫
最後に護身刀を引抜て真一文字に掻切たる時に、一朶の白気閃めき出で、空に舞ひ上りたる八珠「粲然として光明をはな」つに及びて、「歓しやわが腹に。
— 北村透谷 『処女の純潔を論ず』 青空文庫
一郎右衛門は、眼を閉じて、暫く、じっとしていたが「えいっ」 と、叫んで――人々が、その叫び声に、ぐっと、胃の腑を、突かれた時、力任せに、右手へ、掻切ってしまった。
— 直木三十五 『南国太平記』 青空文庫
そして、顔を上げようとしたが、暫く、じっと――それは、残りの力を集めて、頸を掻切るためでもあったし、苦痛を耐える最後の努力でもあった。
— 直木三十五 『南国太平記』 青空文庫
』謂ふ時晩く、高峰が手にせる刀に片手を添へて、乳の下深く掻切りぬ。
— 八面樓(宮崎湖処子) 『泉鏡花作『外科室』』 青空文庫
もうここまでに成ればこちらのもの、隠し持ったる鎌で、後から、高田殿の喉笛を掻切り、父兄の仇の幾分を報じるのだ。
— 江見水蔭 『怪異黒姫おろし』 青空文庫
* * * * 次の日の朝、和歌の浦の漁夫、磯邊に來て見れば、松の根元に腹掻切りて死せる一個の僧あり。
— 高山樗牛 『瀧口入道』 青空文庫