惘
惘
名詞
標準
文例 · 用例
御新造は驚きたるやうの惘れ顏して、夫れはまあ何の事やら、成ほどお前が伯父さんの病氣、つゞいて借金の話しも聞ましたが、今が今私しの宅から立換へようとは言はなかつた筈、それはお前が何ぞの聞違へ、私は毛頭も覺えの無き事と、これが此人の十八|番とはてもさても情なし。
— 一葉女史 『大つごもり』 青空文庫
お前はまだ寐ないのかえ、と障子の外から聲をかけて、奧さまずつと入り玉へば、室内なる男は讀書の腦を驚かされて、思ひがけぬやうな惘れ顏をかしう、奧さま笑ふて立ち玉へり。
— 樋口一葉 『われから』 青空文庫
渠はしばらく惘然として佇みぬ。
— 泉鏡花 『義血侠血』 青空文庫
顔貌が何となく惘乎して、どこにか気の抜けた様な処が見えるのはその為であるらしい。
— 平出修 『逆徒』 青空文庫
惘然として耳を傾くれば、金之助はその筋|疼む、左の二の腕を撫でつついった。
— 泉鏡花 『式部小路』 青空文庫
蓋を拂へば、昏惘として令史あり。
— 泉鏡太郎 『唐模樣』 青空文庫
久く考えていて、「あ、お勢の事か」と辛くして憶い出しは憶い出しても、宛然世を隔てた事の如くで、面白くも可笑も無く、そのままに思い棄てた、暫くは惘然として気の抜けた顔をしていた。
— 二葉亭四迷 『浮雲』 青空文庫
」 庸三は惘れもしなかった。
— 徳田秋声 『仮装人物』 青空文庫