徂来
そらい
名詞
標準
文例 · 用例
其赤い火影が、一筋町の賑ひを楽しく照して、晴着を飾つた徂来の人の顔が何れも/\酔つてる様に見える。
— 石川啄木 『鳥影』 青空文庫
が、崕花の発したのを見、澗水の鳴るのを聞きながら、雲と共に徂来するのもやはり一生の快事である。
— 芥川龍之介 『僻見』 青空文庫
目の前には、さまざまな幻が、瀕死の彼をあざけるように、ひっきりなく徂来すると、その幻と、現在門の下で起こっている出来事とが、彼にとっては、いつか全く同一な世界になってしまう。
— 芥川龍之介 『偸盗』 青空文庫
北海の水の上にまだ流氷の残塊が徂来するころ、通例、成牡と呼ばれる、四五十頭の、怪物のような巨大獣が先着し、上陸しやすい場所を占領してあとからくる成牝を待つ。
— 久生十蘭 『海豹島』 青空文庫
太陽はアルプスの巓を赤紫色に染めて、ようやくその向うへ沈もうとしている、漫々たる海面は青色から濃い灰色に変り、はるかなるフレエジュの山の上に薄黒い雲が徂来するのは、多分今夜、西北風でもってこのリヴィエラ一帯を吹き荒らそうとする風神の前芸なのであろう。
— 謝肉祭の支那服 ――地中海避寒地の巻―― 『ノンシャラン道中記』 青空文庫
曇っている東の方に引きかえて、霽れた西の空には、真黒に針葉樹を鎧うた七面山の尨大な山容が望まれ、行手には天子山脈の天子ヶ岳が尖った頂上を徂来する雲の間から露わして、東南に曳いた茅戸の長い尾根の低い所まで雪が白い。
— 木暮理太郎 『春の大方山』 青空文庫
徂來は、學究としても、書人としても、ひとかどではあらうが、感情的に僕はきらひである。
— 吉川英治 『折々の記』 青空文庫