隠現
いんげん
名詞
標準
文例 · 用例
お待合わせを約束の仲|町を出た、あの大時計が雪の塔、大吹雪の峠の下に、一人旅で消えそうに彳っていらっしゃるのが目さきに隠現くもんですから、一息に駆出すようにして来たんです。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
その不満足の苦を脱れようと気をあせるから、健康な智識は縮んで、出過た妄想が我から荒出し、抑えても抑え切れなくなッて、遂にはまだどうしてという手順をも思附き得ぬうちに、早くもお勢を救い得た後の楽しい光景が眼前に隠現き、払っても去らん事が度々有る。
— 二葉亭四迷 『浮雲』 青空文庫
即ち、以上四つの創傷に就いて、その生因を瞼の裏に並べてみると、てっきり首尾を異にしているとしか思われぬような――まるで猫の爪みたいに、自由自在な隠現をするかのような兇器を、想像するより外にないのだった。
— 小栗虫太郎 『夢殿殺人事件』 青空文庫
また、それ以前に犯人は、繍仏の指の先に、隠現自在な鉤形をした兇器を嵌め込んで置いたのだが、その兇器は、その場限りで消え失せてしまったのだよ。
— 小栗虫太郎 『夢殿殺人事件』 青空文庫
」 隊長は羅刹のような憤激で、荒れ狂い怒りたけって、草むらに隠現した。
— 里村欣三 『シベリヤに近く』 青空文庫
馬の背や風吹きこぼす椎の花 頂にて馬を下りつく/\四方を見下せば古木欝蒼深くして樵夫の小道かすかに隠現す。
— 正岡子規 『かけはしの記』 青空文庫
あれほど意をくばってきたになお尾行されているとは気がつかなかった……という月輪一同の不審ももっともで、ちちぶの深山に鹿を追い、猿と遊んで育った郷士泰軒、彼は自案にはすぎなかったが、隠現機に応ずる一種忍びの怪術を心得ていたのだ。
— 乾雲坤竜の巻 『丹下左膳』 青空文庫
シュッシュッという弾丸の中を落来る小枝をかなぐりかなぐり、山査子の株を縫うように進むのであったが、弾丸は段々烈しくなって、森の前方に何やら赤いものが隠現見える。
— ガールシン 『四日間』 青空文庫